グレゴリウス10世 (ローマ教皇)

グレゴリウス10世（Gregorius X, 1210年 - 1276年1月10日）は、中世ヨーロッパの激動期にローマ教皇として在位した人物です。本名をテオバルド・ヴィスコンティといい、イタリアの名門ヴィスコンティ家の出身です。彼の教皇選出は、異例の遅延を経て実現し、その後の教会運営に大きな影響を与えました。

教皇選出までの道のり

1268年に教皇クレメンス4世が亡くなった後、後継者を選ぶコンクラーヴェは難航しました。実に3年もの間、教皇が不在という異常事態が続いたのです。この間、教会内部では様々な政治的駆け引きが行われ、有力な候補者たちの間で意見が対立しました。1271年、ようやくテオバルド・ヴィスコンティが教皇に選出されます。しかし、彼は当時、エドワード王太子（後のイングランド王エドワード1世）が率いる第8回十字軍に参加しており、遠征先からローマに戻っての即位となりました。この異例の選出劇は、当時の教会の混乱と、グレゴリウス10世自身の存在の特異性を示しています。

第2リヨン公会議と東西教会の合同

1274年、グレゴリウス10世は第2リヨン公会議を開催しました。この公会議の最大の目的は、東ローマ帝国との教会合同を達成することでした。東ローマ帝国皇帝ミカエル8世に公会議への参加を呼びかけ、皇帝は参加を見送りましたが、代理使節を派遣しました。公会議では、正教会とカトリック教会の合同について話し合われ、一時的に東西教会の合同が達成されました。しかし、この合同は、シチリア王シャルル・ダンジューの東ローマ帝国遠征を牽制する政治的な側面が強く、正教徒からの支持は得られず、最終的には取り消しとなりました。この一件は、当時の教会が政治的権力と密接に結びついていたことを示しています。

コンクラーヴェの改革

グレゴリウス10世は、自身の教皇選出に3年もの歳月を要したコンクラーヴェの弊害を深く認識していました。そこで、教皇が選出されない場合の枢機卿団の隔離など、コンクラーヴェの制度改革を断行しました。この改革は、その後の教皇選出における不正や混乱を防ぐ上で重要な役割を果たし、現代のコンクラーヴェ制度にもその影響を残しています。教皇選出を迅速かつ円滑に行うためのこの改革は、グレゴリウス10世の功績の一つとして高く評価されています。

ローマ王位の承認

また、グレゴリウス10世は、大空位時代を終結させたルドルフ1世のローマ王位を承認しました。一方で、カスティーリャ王アルフォンソ10世の選出には反対しました。アルフォンソ10世は1275年に王位を断念することとなりました。この出来事は、当時の教皇の政治的影響力の大きさを示しています。

その死と遺産

1276年1月10日、グレゴリウス10世はアレッツォで病のため亡くなりました。その死後、福者に列せられました。彼の死後、直ちにコンクラーヴェが開かれ、わずか21日後にインノケンティウス5世が選出されました。グレゴリウス10世が確立したコンクラーヴェの制度は、形を変えながらも現代まで続いています。彼は、教会政治と信仰の両面で大きな足跡を残した教皇として、歴史に名を刻んでいます。

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