グレート・ノース・オブ・スコットランド鉄道

グレート・ノース・オブ・スコットランド鉄道：スコットランド北東部の鉄道史を彩る軌跡

グレート・ノース・オブ・スコットランド鉄道（以下、GNSR）は、1923年のイギリスにおける四大鉄道グループ化以前、スコットランド北東部で重要な役割を果たした鉄道会社の一つです。1845年の設立以来、アバディーンとインヴァネスを結ぶ主要路線を中心に、地域経済を支える広範な路線網を築き上げました。その歴史は、スコットランド鉄道史において重要な一章を刻んでいます。

設立と初期の拡大：アバディーンからインヴァネスへ

GNSRは、アバディーンからインヴァネスへの鉄道建設を目的として設立されました。当初計画された路線はドン川沿いを通り、ハントリー、キースを経由してスペイ川を渡り、エルギンから海岸沿いにインヴァネスへと至るものでした。さらに、バンフ、ポートソイなど北海沿岸の漁港への支線も計画されました。しかし、資金調達難や、競合する他鉄道会社の計画との兼ね合いなどから、当初の壮大な計画は修正を余儀なくされ、1854年、アバディーン近郊のキティーブルースターからハントリーまでの比較的短い区間で、まずは貨物輸送、そして旅客輸送を開始しました。

開業当初は車両不足に悩まされましたが、徐々に路線を延伸し、1867年にはアバディーンシャー、バンフシャー、マレーなど3つの行政区画を網羅する路線網を形成、さらにインヴァネスシャー、キンカーディンシャーにも短い路線を伸ばしました。重要な輸送品目は、北海からの水産物やスペイサイド地方のウィスキーでした。また、イギリス王室がバルモラル城への往来にディーサイド線を使い、滞在中はアバディーンから毎日特別な「メッセンジャー列車」が運行されたことも、GNSRの特徴の一つでした。

路線網の拡大と吸収合併：周辺鉄道会社の統合

GNSRは、初期の路線延伸後、財政難に見舞われる時期もありましたが、1880年代以降は路線網の拡張と近代化に力を入れます。周辺の多くの小規模な鉄道会社を吸収合併し、その路線網を自社のものに組み込んでいきました。代表的な例として、フォーマーティン・アンド・ブカン鉄道（ピーターヘッド、フレイザーバラ方面）、アルフォード・バレー鉄道、インヴァルリー・アンド・オールド・メルドラム・ジャンクション鉄道、バンフ・マクダフ・アンド・タリフ鉄道、バンフ・ポートソイ・アンド・ストラスアイラ鉄道、キース・アンド・ダフタウン鉄道、ストラススペイ鉄道、マレーシャー鉄道などがあります。これらの合併により、GNSRはスコットランド北東部における鉄道網の支配力を強固なものにしました。この過程では、路線建設における技術的な課題や、他の鉄道会社との競争、合併交渉における困難など、多くの問題を克服する必要がありました。

アバディーン共同駅建設とディーサイド線：競合と協力

アバディーン市内には、GNSRのウォータールー駅と、他の鉄道会社が使用するギルド・ストリート駅があり、乗換の不便さから共同駅建設の必要性が認識されていました。しかし、他の鉄道会社との間で路線接続や駅の管理運営をめぐる利害対立が複雑に絡み合い、共同駅の建設は難航しました。ディーサイド線（アバディーンからバルモラル城方面）の建設・運営についても、同様の競合と協力関係が複雑に絡み合いました。最終的には、1867年にアバディーン共同駅が完成し、GNSRは競合他社との連携を深めていきます。ディーサイド線は、イギリス王室の利用もあって重要な路線となり、GNSRの経営に貢献しました。

財政難からの復興：近代化と路線拡張

1860年代後半から1870年代前半にかけて、GNSRは財政難に苦しみました。配当を支払えない状況に陥るなど、経営は非常に厳しい状態でした。しかし、1870年代後半から、新体制の下で経営の立て直しを図り、路線の近代化、複線化、機関車や車両の更新を進めました。また、アバディーン近郊の交通網の改善にも取り組み、近郊列車を充実させました。さらに、観光客誘致のためのホテル経営にも着手し、観光業の発展にも貢献しました。

アバディーン - インヴァネス間の競争と協調：ハイランド鉄道との関係

アバディーンとインヴァネスを結ぶ路線については、GNSRとハイランド鉄道との間で、長年にわたる競争と協調関係が続きました。それぞれの会社は、自社の路線がより優れていると主張し、激しい競争を繰り広げました。しかし、同時に、乗客や貨物の輸送において相互に連携する必要性もありました。結果として、両社はアバディーン-インヴァネス間の運行について、最終的に協調体制を構築することになります。

第一次世界大戦とグループ化：LNERへの吸収

第一次世界大戦中は、政府の管理下に置かれ、軍需輸送などに従事しました。戦後は、経営環境の悪化や、鉄道のグループ化政策により、1923年、GNSRはロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道（LNER）に吸収されました。

LNER、イギリス国鉄時代、そして現在

LNER傘下、そしてイギリス国鉄時代には、合理化と効率化が進められ、多くの路線が廃止されました。しかし、アバディーンとインヴァネスを結ぶ主要路線は現在も残っており、重要な交通路として機能しています。かつてのGNSRの路線の一部は、保存鉄道や観光鉄道、遊歩道などに転用され、その歴史は現在も受け継がれています。

鉄道車両：機関車と客車

GNSRは、その歴史の中で様々な種類の機関車と客車を保有・運用しました。初期の機関車は、比較的簡素な構造でしたが、技術の進歩とともに、より強力で効率的な機関車が導入されました。客車についても、当初は簡素な2軸客車でしたが、時代の変化とともに、より快適で安全な多軸客車へと進化していきました。

まとめ

GNSRは、スコットランド北東部の発展に大きく貢献した鉄道会社でした。その歴史は、技術革新、経営努力、競合他社との関係、そして時代の変遷を反映した、興味深いものです。現在でも残る路線や遺構は、その歴史を語り継いでいます。

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