イギリス国鉄

イギリス国鉄：国有化から民営化まで、そして現在

1948年から2000年まで存在したイギリスの国有鉄道、イギリス国鉄（British Railways, British Rail）。その歴史は、国有化、合理化、そして民営化という激動の時代を反映しています。本稿では、イギリス国鉄の興亡と、民営化後の現状について詳細に解説します。

国有化：私鉄の統合と近代化への課題

19世紀に世界で初めて鉄道が開通したイギリス。しかし、その発展は数多くの私鉄によって支えられてきました。第一次世界大戦中には政府の管轄下に置かれたものの、戦後は私鉄のまま存続。1923年、100社以上の私鉄が4大私鉄（ビッグ・フォー）に再編されました。

第二次世界大戦後、労働党政権は公共事業の国有化を推進。1948年、イギリス運輸委員会（BTC）の傘下でイギリス国鉄が発足しました。4大私鉄は鉄道部局に統合され、「British Railways」の名称が用いられるようになりました。国有化は、戦災からの復旧、老朽化したインフラの整備を急務としました。

当時、ヨーロッパ各国は電気機関車やディーゼル機関車への転換を進めていましたが、イギリス国鉄では蒸気機関車が長く主力でした。1950年代以降はモータリゼーションの進展により、赤字路線の廃止や大規模な合理化が進められました。

6つのリージョンと近代化計画

国有化当初、イギリス国鉄は4大私鉄の地域区分を踏襲した6つのリージョン体制を採用しました。各リージョンは独自の運営を行い、蒸気機関車や客車の増備も続けました。1950年代半ばには近代化計画が開始され、主要幹線電化、蒸気機関車のディーゼル・電気機関車への置き換えなどが進められました。

しかし、計画は必ずしも成功したとは言い難く、貨物輸送における自動車への転換の考慮不足、大規模貨物操車場の建設、ディーゼル機関車の故障増加など、多くの問題を抱えていました。

ビーチングの斧と無煙化

1963年、リチャード・ビーチング博士による大規模な合理化計画（ビーチング・アックス）が発表されました。この計画では、路線と駅の約3分の1が廃止され、大きな社会的な議論を呼びました。

蒸気機関車の全廃に伴い、イギリス国鉄は「British Rail」に名称変更し、「ダブル・アロー」ロゴを採用。車両製造部門も分社化され、運行管理システムTOPSも導入されました。

新型車両の開発とセクター化

1970年代には、新型通勤電車や高速列車APTの開発が試みられました。APT計画は技術的問題により頓挫しましたが、高速気動車HSTは成功を収め、民営化後も活躍しました。

1980年代には、リージョン体制から5つのセクター（旅客、貨物、保守管理）への再編が行われ、各セクターは部門ごとに細分化されました。これに伴い、車両塗装も多様化しました。大規模な設備投資計画も進められましたが、予算不足により多くの計画は中止されました。

分割民営化とその後

1990年代初頭、イギリス国鉄の民営化が決定。上下分離方式が採用され、旅客輸送は複数の民間企業に分割されました。「ナショナル・レール」ブランドが統一ブランドとして用いられ、運行会社協会（ATOC）が設立されました。貨物輸送も民営化され、インフラ管理はレールトラック社が担うこととなりました。

しかし、レールトラック社はインフラ整備の遅れや事故の多発により2002年に破綻。ネットワーク・レールが設立され、インフラ管理を引き継ぎました。民営化後、旅客輸送は増加を続けましたが、運賃値上げや補助金の増加も問題となりました。現在では、ヨーロッパ各国国鉄や日本の鉄道会社もイギリスの鉄道事業に参入しています。

まとめ

イギリス国鉄の歴史は、国有化による近代化の試みと、民営化による競争導入という2つの大きな転換点を経てきました。民営化後も、旅客輸送数は増加傾向にありますが、インフラ整備や運賃体系、競争環境など、多くの課題が残されています。今後のイギリス鉄道の動向は、世界中の鉄道事業のあり方に大きな影響を与えるでしょう。

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