ケプラー62f

ケプラー62f

ケプラー62f（Kepler-62f）は、地球からおよそ1200光年離れた、こと座の方向に位置する恒星ケプラー62の周囲を公転する太陽系外惑星の一つです。2013年の発見以来、この天体は液体の水が存在しうる温暖な領域、すなわちハビタブルゾーン内に位置すると予測されており、特に発見当時は、ハビタブルゾーン内にある可能性が示唆されていた既知の系外惑星の中で最も小さい直径を持つ天体として大きな注目を集めました。

軌道の性質

主星であるケプラー62は、太陽に比べてやや小ぶりな恒星で、その直径は太陽の約0.64倍、質量は約0.69倍です。この恒星系には、ケプラー62fを含めて合計5つの太陽系外惑星（ケプラー62b、c、d、e、f）が確認されており、ケプラー62fはその中で最も恒星から離れた軌道を回っています。ケプラー62fの主星からの平均距離（軌道長半径）は0.718天文単位（AU）で、これは太陽系における金星の軌道とおおよそ同じ距離にあたります。この軌道を約267.3日（267.291日）の周期で一周しています。

ケプラー62fは、地球からの観測において、周期的に主星ケプラー62の手前を通過する現象（トランジット）を起こします。この通過によって、恒星の光がわずかに遮られ、明るさが一時的に減光します。観測された最大の減光率は約0.042%で、この減光は約7.46時間にわたって続きます。NASAのケプラー宇宙望遠鏡は、このトランジット現象を検出することで系外惑星を発見する「トランジット法」を用いており、ケプラー62fもこの方法によって2013年にその存在が確認されました。発見の事実は、同年4月18日に、同じくケプラー望遠鏡が発見したケプラー62系の他の4惑星や、別の恒星ケプラー69を回る2つの惑星の発見と共に公表されました。公転周期が比較的長いため、ケプラー62fのトランジットは頻繁には起こりません。当初は系内の内側を回る4つの惑星が先に検出され、ケプラー62fはこれらの発見に続いて、天文学者Eric Agol氏によってその存在が確認されました。

物理的性質

トランジット観測で得られた減光の度合いから、ケプラー62fの直径は地球の約1.41倍であると推定されています。主星からの距離は地球軌道より内側ですが、主星ケプラー62が太陽よりも低温（表面温度約4652℃、絶対温度4925K）で光度も太陽の約0.2倍と暗いため、ケプラー62fはケプラー62のハビタブルゾーンの中間に位置する軌道にあると考えられています。前述の通り、ケプラー62fは発見当時、ハビタブルゾーン内に存在が予測される既知の惑星の中では最も小さい直径を持っていました。それまでの記録は、地球の約2.4倍の直径を持つケプラー22bでしたが、ケプラー62fの記録は後に地球の約1.1倍の直径を持つケプラー186fが発見されたことで更新されました。

トランジット法では惑星の質量を直接測定することが難しいため、ケプラー62fの正確な質量は不明です。しかし、その推定されるサイズから、質量は地球の約35倍以下と考えられており、NASAの研究者らはケプラー62fが岩石を主成分とする地球型惑星、いわゆるスーパー・アースである可能性が高いと推測しています。主星ケプラー62の年齢は30億年から110億年と見積もられており、これは生命が誕生し、進化するためには十分な長い時間が経過していることを示唆しています。

ケプラー62fの正確な表面環境や温度を知るためには、その反射率（アルベド）や大気の組成といった詳細な情報が必要です。仮にアルベドを地球に近い0.3と仮定し、大気による温室効果を全く考慮しない単純計算では、表面温度は約-65℃（208K）となります。この計算値だけを見ると、液体の水が存在するには低温すぎるように思えるかもしれません。しかし、この値は大気の効果を全く無視したものです。例えば、地球でも大気による温室効果がなければ平均表面温度は約-18℃になると計算されています。ケプラー62fは地球より直径が大きく、質量も地球より大きいスーパー・アースである可能性が高いことから、より濃密な大気を持ち、その結果として強い温室効果が働き、表面温度が液体の水が存在しうる範囲になる可能性も指摘されています。生命が存在可能な環境であるかどうかは、今後の詳しい観測や研究によって明らかになっていくと考えられます。

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