ケプラー89

ケプラー89

ケプラー89は、地球からはくちょう座の方向におよそ2000光年の距離に位置する恒星です。

恒星の性質

ケプラー89は太陽と比べてやや大きな恒星で、直径は太陽の約1.66倍、質量は約1.25倍です。質量の割に直径が大きいため、太陽よりも平均密度や表面重力は低い値をとります。表面温度は約5893℃（6116K）と、太陽よりわずかに高温です。含まれる金属の量を示す金属量は太陽とほとんど差がありません。年齢については、推定で37億年から42億年とされており、太陽よりやや若い恒星と考えられています。

自転に関する特徴として、ケプラー89の自転軸は軌道面に対しておよそ-6度の傾きを持つとされています。自転周期は、分光観測からは11.1日、ロシター・マクローリン効果を用いた推定では10.2日という値が得られています。

地球から観測される視等級は12.4等級と暗いため、肉眼で観測することはできません。距離に基づくと、絶対等級は3.46等級となります。

惑星系

これまでの観測により、ケプラー89の周囲には少なくとも4個の太陽系外惑星が存在することが確認されています。これらの惑星は全て、ケプラー宇宙望遠鏡によるトランジット法（恒星の手前を惑星が通過する際に生じるわずかな減光を捉える方法）で発見されました。内側から順番に、ケプラー89b、ケプラー89c、ケプラー89d、ケプラー89eと名付けられています。

それぞれの惑星の大きさから、性質がある程度推定されています。最も外側を公転するケプラー89dは木星の約83％の直径を持つ巨大ガス惑星と考えられています。その内側のケプラー89cとケプラー89eは、それぞれ木星の約31％と約49％の直径を持ち、これは地球の約3.5倍と約5.5倍に相当します。これらの惑星は海王星サイズのガス惑星に分類されます。最も内側を回るケプラー89bは、地球の約1.45倍の直径しかなく、地球のような岩石惑星である可能性が高いとされています。

特筆すべき現象：惑星同士の食

ケプラー宇宙望遠鏡によって発見された惑星は、その検出方法の特性上、地球から見て恒星の手前を通過する（日面通過、あるいはトランジットと呼びます）軌道を持つものが多く見られます。ケプラー89系の惑星は公転周期が比較的短いため、時折、複数の惑星が同時に恒星を通過する現象が起こります。

この系で特に注目すべきは、太陽系外惑星において初めて「惑星同士の食（occultation）」が観測されたことです。これは、一方の惑星がもう一方の惑星の手前を通過し、互いを隠し合う現象です。2010年1月15日（UTC）の0時20分から0時26分にかけてのわずか6分間、ケプラー89d（木星の約0.92倍の直径）とケプラー89e（木星の約0.54倍の直径）が同時に恒星の手前を通過している最中に、dの一部をeが隠す食が観測されました。この食は、恒星の明るさが一時的に増大する（通常は惑星通過で暗くなる）という特異な変化を捉えることで発見されました。

この貴重な惑星同士の食の観測は、惑星の軌道に関する重要な情報を明らかにしました。食が起こった正確なタイミングと継続時間から、ケプラー89dとケプラー89eの公転軌道が互いに非常に良く揃っており、軌道面の傾きがわずか-1.55度の差しかないこと、そして両者が同じ方向に（順行で）公転していることが分かりました。さらに、ロシター・マクローリン効果の測定からは、これら惑星の公転軌道面がケプラー89の自転軸とほぼ直交しており、恒星の自転方向と惑星の公転方向が同じである（順行している）ことも判明しました。

太陽系では、惑星の軌道面がほぼ揃い、恒星の自転軸に対して直交していることは一般的です。しかし、ケプラー89系には木星サイズの巨大惑星が恒星に近い軌道を公転しており、このような巨大惑星は、かつてより遠い場所から内側に移動してきた（惑星移動）とする説が有力です。惑星移動を経験した系では、恒星の自転軸と惑星の公転面が大きく傾いたり、逆行したりする例が他の系で観測されています。それにも関わらず、ケプラー89系では複数の惑星が存在し、内側に移動した可能性のある巨大惑星があるにもかかわらず、軌道面が揃って恒星の自転軸と直交しているという事実は、複数の惑星が互いに重力的に影響し合いながら進化する過程が、単独惑星系とは異なる様相を呈する可能性を示唆しており、惑星系の形成や進化に関する理論に重要な示唆を与えています。

このような惑星同士の食は非常に稀な現象であり、次にケプラー89系で観測される可能性があるのは2026年4月1日と予測されています。

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