ケルムスコット・ハウス

ケルムスコット・ハウスは、ロンドンのハマースミス、アッパーモール26番地に位置するジョージアン様式の煉瓦造りの邸宅です。テムズ川に面したこの建物は、1785年頃に建てられ、3階建て、地下室と屋根窓を備えています。

この家は、当初は科学者サー・フランシス・ロナルズ一族の所有でした。ロナルズは1816年、この家の庭で世界初の電信システムを開発したことで知られています。その後、1867年から1877年までは、作家で聖職者であったジョージ・マクドナルドが居住し、『北風のうしろの国へ』や『お姫様とゴブリン』といった名作をここで執筆しました。

1878年10月、ウィリアム・モリスがケルムスコット・ハウスに住み始めます。当初「ザ・リトリート」と呼ばれていたこの家は、モリスがオックスフォードシャーのケルムスコットに所有していたケルムスコット・マナーにちなんで改名されました。モリスは、馬車置き場をテキスタイル工房として使用し、私室でもタペストリー制作などを行い、創作活動に励んでいました。1881年にマートン・アビーに染色工房を設立した後も、ケルムスコット・ハウスの工房は、社会主義者の集会場所として利用されるようになりました。

当時、ハマースミスはロンドン中心部よりも静かで自然豊かだったため、モリスはこの家の庭を愛し、静かな生活を送っていました。彼はこの家を大変気に入り、1891年には近隣にケルムスコット・プレスという印刷所を設立、アーツ・アンド・クラフツ運動の発展に貢献しました。モリスは1896年10月、この家で生涯を終えました。

1954年には、イギリスの法的保護制度である第二級指定建造物に指定されました。現在、ケルムスコット・ハウス自体は私有地ですが、ウィリアム・モリス協会が建物の部分を本部として使用しています。一般公開されているのは、ウィリアム・モリス協会が管理する部分で、美術館として公開されています。馬車置き場だった場所には展示物が設置され、当時の様子を偲ばせる空間となっています。2011年には、ロンドン歳出削減反対抗議運動の一環として、ウィリアム・モリス協会は一日だけ社会主義連盟の事務所をケルムスコット・ハウスに再現する取り組みを行いました。

ケルムスコット・ハウスは、ウィリアム・モリスの生活と創作活動、そしてアーツ・アンド・クラフツ運動、さらには世界初の電信システムの発祥地としての歴史的意義を併せ持つ重要な場所であり、現在もその歴史的価値を保ち続けています。

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