コクチョウ

コクチョウ（黒鳥）

コクチョウ（学名：Cygnus atratus）は、カモ目カモ科ハクチョウ属に分類される鳥類で、「ブラックスワン」とも呼ばれています。その名の通り、全身が黒い羽毛で覆われているのが特徴です。

分布

コクチョウは、オーストラリアの固有種であり、内陸部の乾燥地帯からヨーク岬半島を除く全土に生息しています。渡りは行わず、季節や環境の変化に応じて移動する漂鳥です。オーストラリアにはコクチョウの他に、コブハクチョウが移入されています。また、ニュージーランド、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、スロベニア、シンガポール、日本（茨城県、宮崎県）など、世界各地に移入されています。西オーストラリア州の州鳥に指定されています。

形態

成鳥の全長は110cmから140cm、体重は5kgから6kg、最大で9kgに達します。翼を広げると2mにもなります。くちばしは赤く、先端付近に白い斑点があります。虹彩は赤色です。全身の羽毛は黒色ですが、初列風切羽から二列風切羽の外側にかけては白色です。

幼鳥は、全身の羽毛が白色で、くちばしは黒色をしています。成長するにつれて羽毛は黒くなり、くちばしは赤褐色から赤色へと変化します。虹彩は褐色をしています。

分類

コクチョウには以下の2つの亜種が確認されています。

C. a. atratus：オーストラリアに分布する基亜種。
C. a. sumnerensis：ニュージーランドに分布していたが、マオリ族の到来後の狩猟により絶滅した亜種。現在ニュージーランドで見られるコクチョウは、オーストラリアから移入されたC. a. atratusです。

生態

コクチョウは草食性で、主に水草を食べています。水辺に近い場所や陸上でも採食を行います。

繁殖期は場所によって異なりますが、一般的には4月から9月にかけてです。つがいは一生涯継続します。湖の浅瀬や島に、草を積み重ねた直径約1.5mの巣を作ります。毎年同じ巣を利用し、必要に応じて修復や立て直しを行います。通常、4-6個の卵を産み、雌雄共に抱卵します。オスとメスは協力して巣を守り、雛が飛べるようになるまで育てます。雛が成長すると、家族で一緒に餌を探す姿が見られます。

乾燥期に湖沼の水が少なくなると、水を求めて数百羽の群れで移動することがあります。夜間に飛翔することが多いです。

逸話

かつて英語には、「黒い白鳥を探すようなものだ」という、無駄な努力を意味することわざがありました。それほど黒い白鳥は存在しないと信じられていたからです。しかし、1697年にオーストラリアでコクチョウが発見され、人々に大きな驚きを与えました。この発見は、「常識を疑うこと」「物事を一変させること」「自分を絶対視しないこと」の象徴として使われるようになり、そこから「ありえないと思われていたことが突然発生すると、予想されていた場合よりも影響が苛烈になる」というブラック・スワン理論が提唱されるきっかけとなりました。

保全状況

コクチョウは、IUCNレッドリストにおいて、軽度懸念（Least Concern）に分類されています。

その他

参考文献：Michael Morcombe, Field Guide to Australian Birds, Steve Panish Publishing, 2004, ISBN 9781740215596
関連項目：オーストラリアの野鳥一覧、スワン川（コクチョウの英名ブラックスワンから名付けられた）

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