コスモス1669号

コスモス1669号は、ソビエト連邦が開発・運用した無人宇宙補給船「プログレス」シリーズの一機です。サリュート7号宇宙ステーションへの物資供給を主任務としたプログレス7K-TG型の126番機にあたる本機は、プログレス補給船としては唯一「コスモス」の名称と番号が与えられた特異な存在として知られています。

この補給ミッションは、1985年7月19日13時5分（グリニッジ標準時、以下同）に開始されました。カザフスタン共和国に位置するバイコヌール宇宙基地の第1/5発射台から、ソユーズ-Uロケットによって宇宙へと打ち上げられました。打上げからおよそ2日後の7月21日15時5分には、目的地である軌道上のサリュート7号ステーションとのドッキングを無事成功させました。

ステーションに滞在して積荷の輸送などの補給活動を終えたコスモス1669号は、8月28日にサリュート7号から一旦ドッキングを解除して離れました。その後、宇宙でのドッキング機構の信頼性を確認するための追加試験として、再びステーションとのドッキング操作を実施。試験を完了した後、同日21時50分に最終的なドッキング解除が行われました。すべての任務を終えた本機は、8月30日に軌道離脱のシーケンスを開始。同日1時20分に太平洋上空で大気圏への再突入を果たし、その飛行を終えました。

コスモス1669号の到着は、当時予期せぬトラブルに見舞われ活動が停止していたサリュート7号が、クルーによる困難な復旧作業によって再び機能を回復させた直後という、重要なタイミングで行われました。ステーションが停止していた際の低温環境により使用できなくなっていた宇宙服があったため、本機は交換用の新しい宇宙服を運ぶという、クルーの安全確保に直結する物資輸送を担いました。

また、コスモス1669号はサリュート計画においてプログレス補給船が使用された最後のミッションとなりました。これ以降、サリュート7号への後続の補給ミッションには、プログレスとは異なるTKS補給船（例えばコスモス1686号）が使用されることになります。プログレス補給船が再び宇宙ステーションへの補給に用いられるのは、サリュート計画の後継となる次世代宇宙ステーション「ミール」へのミッション、具体的にはプログレス25号以降のこととなります。

このプログレス補給船に「コスモス」の番号が与えられた背景は、長らく議論の的となりました。2011年時点では、プログレスとして唯一のコスモス番号付与例であったためです。当初は、同時期に打上げられたTKS補給船「コスモス1686号」との混同説や、打上げ直後に一時的に機体制御を失ったためにコスモス番号が付与されたが、その後回復してミッションを続行したという説などが流布しました。また、将来のプログレス改良に向けた技術試験を目的とした機体であったため、試験機としてコスモス番号が与えられた可能性や、プログレスをベースにした新型機であったとする報道も存在しました。

しかし、後に明らかになった真相は、初期の管制側の誤判断に起因するものでした。打上げ直後、本機に搭載されていた自動ランデブー・ドッキングシステム「Igla」に使用されるアンテナの展開センサーが異常な値を示したため、管制センターではアンテナ展開が失敗し、ミッションが遂行不可能になったと判断しました。この時点で失敗した宇宙機に割り当てられることの多い「コスモス1669号」という名称を暫定的に付与したのです。ところが、実際にはアンテナは正常に展開されており、問題はセンサーの故障であったことが判明しました。そのため、名称変更されることなくコスモス1669号として、当初の計画通りサリュート7号へのドッキングと補給任務を完遂することになったのです。このセンサーのトラブルとその後の誤判断が、プログレス補給船でありながらコスモス番号を持つという、この機体のユニークな歴史を生むことになりました。

コスモス1669号は、サリュート7号の運用継続を支えた実質的な功績と、その珍しい命名の由来という二重の意味で、ソビエト宇宙開発史における記憶されるべき一機と言えるでしょう。

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