コックスバザール

コックスバザール（ベンガル語: কক্সবাজার、英語: Cox's Bazar）は、バングラデシュ南東部に位置する、チッタゴン管区に属する県の県都です。かつては「Palongke」として知られ、また「黄色い花」を意味する「Panowa」という別名も持っています。バングラデシュ第2の都市であるチッタゴンからは、およそ南へ150キロメートルの距離に位置しています。

この都市の最も際立った特徴は、全長約125キロメートルにわたって延々と続く天然の砂浜海岸線です。この砂浜は、穏やかな勾配を持ちながらも途切れることなく続いており、その長さにおいて世界一であるとされています。このユニークな地形的な魅力から、コックスバザールはバングラデシュ国内で非常に人気の高い観光地の一つとなっています。しかし、国際的な知名度や、インフラ、特に交通網の未整備といった課題から、2013年時点ではまだ世界的に認知された観光地とまでは言えない状況でした。

都市の規模を示す人口は、近年着実に増加傾向にあります。1991年3月の時点で8万人余りだった人口は、2001年1月には9万7千人台となり、そして2011年3月には22万3千人を超えるまでに膨らみました。この2011年の人口は、バングラデシュ国内の都市の中で14番目の規模にあたります。この人口増加は、コックスバザールが発展を続けていること、そして周辺地域からの人々の流入が進んでいることを示唆しています。

美しい砂浜と観光地としての顔を持つ一方で、コックスバザールは近年、深刻な人道危機への対応という側面も強く持っています。2010年代に入ると、隣国ミャンマーのラカイン州で、イスラム系少数民族であるロヒンギャの人々に対する激しい迫害が始まりました。これにより、安全を求めて多数のロヒンギャの人々が国境を越え、コックスバザール周辺地域へと避難してくるようになりました。特に2016年頃からの流入は大規模なものとなり、これに対応するため、2017年には都市の郊外に、最大80万人もの難民を収容できると見込まれる大規模な難民キャンプの設営が開始されました。2020年現在に至っても、コックスバザールの周辺地域には34箇所ものロヒンギャ難民キャンプが設置されており、多くの難民が過酷な環境下での生活を強いられています。

これらの難民キャンプは、単に人々を収容する場所であるだけでなく、新たな社会問題を生み出す温床ともなっています。例えば、2020年には世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大しましたが、これに伴いキャンプの警備体制が一時的に手薄になるという事態が発生しました。この隙を突いて、ミャンマーを拠点とするイスラム系武装勢力、アラカン・ロヒンギャ救世軍（ARSA）のメンバーがキャンプ内に潜入し、難民からの「みかじめ料」の徴収や、自らの組織への加入を募るといった活動を行うようになりました。このような治安の悪化に対し、バングラデシュ政府は強い警戒感を示し、キャンプ内の秩序維持のために警備体制を再度強化する措置を講じました。

交通アクセスとしては、コックスバザール空港が整備されており、国内各地や一部国際線による航空便が利用可能です。この空港は、国内外からの観光客や、難民支援に関わる人々の重要な移動手段となっています。

総じて、コックスバザールは、世界的に見ても珍しいほどの長い天然砂浜という、豊かな自然の恵みとそれに伴う観光業の発展という明るい側面を持つと同時に、大規模なロヒンギャ難民問題とその派生する様々な困難という、深刻な社会問題にも直面している都市です。観光地としての可能性と、人道支援の最前線という、対照的な二つの顔を持つ、非常に複雑な様相を呈していると言えるでしょう。その歴史の長い海岸線のように、この街は今、新たな時代の試練の波に洗われているのかもしれません。

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