アラカン・ロヒンギャ救世軍
アラカン・ロヒンギャ救世軍（ARSA）は、ミャンマー西部に位置するラカイン州を活動地域とする武装組織です。正式名称の英語訳はArakan Rohingya Salvation Armyとされ、主にロヒンギャ民族の権利擁護と保護を主張しています。この組織の指導者はアタウラー・アブ・アマー・ジュヌニでしたが、2025年に逮捕され、現在はマウラナ・ボーハンが後を継いでいます。
ARSAの起源は、2012年にミャンマー全土で発生した反ムスリム暴動に遡ります。この出来事は、国内外のムスリムコミュニティに大きな影響を与え、アタウラーを含む多くのロヒンギャの人々に民族意識の覚醒を促しました。パキスタン出身でサウジアラビアでの比較的裕福な生活を送っていたアタウラーは、ミャンマーにおける衝突を知ることでロヒンギャ・ナショナリズムに傾倒したとされます。
彼はサウジアラビア在住のロヒンギャや富裕層からの献金という豊富な資金を背景に、パキスタン帰国後にターリバーンなどのイスラム過激派からの協力を得ようと試みましたが、これは成功しませんでした。その後、アタウラーらはバングラデシュへ密入国し、2013年にコックスバザールの難民キャンプでARSAを結成しました。初期メンバーはアタウラーを含むパキスタン人が中心で、ミャンマー語やベンガル語が堪能ではなかったとされていますが、少数ながらウズベキスタン人やマレーシア人も参加しており、一部からは国際的なジハード組織である可能性も指摘されました。
しかし、安全保障専門家であるアンソニー・デイビスは、この組織が国際的なイスラム聖戦主義勢力や「イスラム国」（IS）、アルカイダといった組織と実質的なつながりを持たないと分析しています。一方で、バングラデシュ国内の報道では、ハルカトゥル・ジハード・アル・イスラーミー（HUJI）のような地元の過激派組織から支援を受けていた可能性が高いとも伝えられています。
ARSAのメンバーは、バングラデシュおよびラカイン州北部に潜伏しながら、軍事訓練を行い、組織員の募集や武器の調達を進め、勢力の拡大を図りました。
ロヒンギャ危機の発端とされる一連の事件において、ARSAは中心的な役割を果たしました。2016年10月19日、約350人の集団でラカイン州の国境警備隊監視所を複数襲撃し、9名の警察官を殺害、武器を奪いました。この時の装備は貧弱で、ナタや尖らせた竹が主だったとされます。国軍はこの襲撃に対し大規模な掃討作戦を実施し、約7万人のロヒンギャがバングラデシュへ避難する結果となりました。当初、この襲撃は世間にほとんど知られておらず、ロヒンギャ連帯機構（RSO）の関与が疑われましたが、後に「ハルカ・アル・ヤキン」（信仰の運動）という名称で知られるようになり、サウジアラビア出身の指導者、豊富な資金、外国での訓練といった情報がメディアやSNSを通じて拡散されました。
そして2017年8月25日、組織名をARSAと明らかにした彼らは、メンバーを増強し、武器を準備した上で、鉈や竹槍で武装した住民を含む約5000人の規模でラカイン州の約30ヶ所の警察署を同時に襲撃しました。数日間に及ぶ戦闘の結果、治安部隊員14名と公務員1名が死亡しました。これに対し、国軍はロヒンギャ住民の殺害や村落への放火を含む苛烈な掃討作戦を展開し、約70万人ともいわれるロヒンギャ難民がバングラデシュへ流出するという、未曾有の人道危機を引き起こしました。この際、ARSAはヒンドゥー教徒の人々を虐殺したとの報告もあります。ARSAのスポークスマンは攻撃が国軍の反撃を引き出すことが目的だったと述べましたが、専門家は国際的な注目獲得、資金調達、兵士募集が真の目的だったと分析しています。
2018年8月25日、2017年の襲撃から1年を迎えた日に、ARSAはTwitter上でロヒンギャの保護と安全かつ尊厳ある帰還が正当な権利であると表明しました。2017年の襲撃では多数の死傷者が出たとされますが、中核メンバーは無事だったと伝えられています。しかし、それ以降、ARSAが大規模な武装闘争を行ったという情報は少なく、アタウラーも公の場に姿を現さなくなりました。
2020年には、新型コロナウイルスのパンデミックによりバングラデシュのコックスバザールにあるロヒンギャ難民キャンプの警備が手薄になった隙を突いて、ARSAのメンバーがキャンプ内に潜入したと報じられています。彼らはキャンプ内でみかじめ料の徴収や強制的な徴兵を行い始めたとされます。バングラデシュ政府はミャンマー側が難民帰還を拒否する口実とすることを避けるため、キャンプ内にARSAメンバーはいないとの公式見解を示していますが、2020年12月時点でおよそ1500人の勢力がキャンプ内に存在すると推定されています。
2021年のクーデター後、ミャンマーの情勢はさらに複雑化しました。2023年11月13日にラカイン族の武装勢力であるアラカン軍（AA）が停戦合意を破棄して国軍との戦闘を再開すると、ARSAはロヒンギャ連帯機構（RSO）、アラカン・ロヒンギャ軍（ARA）といった他のロヒンギャ系武装組織と共に国軍の指揮下に入り、AAと敵対する側に回りました。
また、コックスバザールの難民キャンプ内では、ARSAとRSOの間で激しい支配権争いが続いています。現在はRSOが優勢とされ、ロヒンギャの若者たちを強制的に徴募し、国軍へ送っていると伝えられています。両組織は互いのメンバーだけでなく、キャンプ内のロヒンギャ人リーダーや教育者を殺害したり、難民を誘拐して身代金を要求したりといった犯罪行為に関与していると報じられており、ロヒンギャ一般の人々からは、自身らを代表する組織ではなく、むしろテロ組織に近い存在として認識されている状況です。さらに、ARSAがラカイン族を含む非ムスリムの村々を襲撃し、住民を虐殺しているとの報道も複数あります。
2025年3月18日、指導者アタウラーがバングラデシュの当局によって逮捕されました。これにより、ARSAのスポークスパーソンを務めていたマウラナ・ボーハンが新たな組織の指導者に就任しました。
ARSAは、ロヒンギャ民族の権利保護という大義を掲げながらも、その活動は主要な襲撃事件による大規模な人道危機の発生や、難民キャンプでの犯罪行為、他の武装勢力との複雑な連携など、多岐にわたる側面を持っています。そのため、その位置づけや評価は非常に複雑であり、ロヒンギャ社会内部からも賛否両論がある組織と言えます。
ARSAの起源は、2012年にミャンマー全土で発生した反ムスリム暴動に遡ります。この出来事は、国内外のムスリムコミュニティに大きな影響を与え、アタウラーを含む多くのロヒンギャの人々に民族意識の覚醒を促しました。パキスタン出身でサウジアラビアでの比較的裕福な生活を送っていたアタウラーは、ミャンマーにおける衝突を知ることでロヒンギャ・ナショナリズムに傾倒したとされます。
彼はサウジアラビア在住のロヒンギャや富裕層からの献金という豊富な資金を背景に、パキスタン帰国後にターリバーンなどのイスラム過激派からの協力を得ようと試みましたが、これは成功しませんでした。その後、アタウラーらはバングラデシュへ密入国し、2013年にコックスバザールの難民キャンプでARSAを結成しました。初期メンバーはアタウラーを含むパキスタン人が中心で、ミャンマー語やベンガル語が堪能ではなかったとされていますが、少数ながらウズベキスタン人やマレーシア人も参加しており、一部からは国際的なジハード組織である可能性も指摘されました。
しかし、安全保障専門家であるアンソニー・デイビスは、この組織が国際的なイスラム聖戦主義勢力や「イスラム国」（IS）、アルカイダといった組織と実質的なつながりを持たないと分析しています。一方で、バングラデシュ国内の報道では、ハルカトゥル・ジハード・アル・イスラーミー（HUJI）のような地元の過激派組織から支援を受けていた可能性が高いとも伝えられています。
ARSAのメンバーは、バングラデシュおよびラカイン州北部に潜伏しながら、軍事訓練を行い、組織員の募集や武器の調達を進め、勢力の拡大を図りました。
ロヒンギャ危機の発端とされる一連の事件において、ARSAは中心的な役割を果たしました。2016年10月19日、約350人の集団でラカイン州の国境警備隊監視所を複数襲撃し、9名の警察官を殺害、武器を奪いました。この時の装備は貧弱で、ナタや尖らせた竹が主だったとされます。国軍はこの襲撃に対し大規模な掃討作戦を実施し、約7万人のロヒンギャがバングラデシュへ避難する結果となりました。当初、この襲撃は世間にほとんど知られておらず、ロヒンギャ連帯機構（RSO）の関与が疑われましたが、後に「ハルカ・アル・ヤキン」（信仰の運動）という名称で知られるようになり、サウジアラビア出身の指導者、豊富な資金、外国での訓練といった情報がメディアやSNSを通じて拡散されました。
そして2017年8月25日、組織名をARSAと明らかにした彼らは、メンバーを増強し、武器を準備した上で、鉈や竹槍で武装した住民を含む約5000人の規模でラカイン州の約30ヶ所の警察署を同時に襲撃しました。数日間に及ぶ戦闘の結果、治安部隊員14名と公務員1名が死亡しました。これに対し、国軍はロヒンギャ住民の殺害や村落への放火を含む苛烈な掃討作戦を展開し、約70万人ともいわれるロヒンギャ難民がバングラデシュへ流出するという、未曾有の人道危機を引き起こしました。この際、ARSAはヒンドゥー教徒の人々を虐殺したとの報告もあります。ARSAのスポークスマンは攻撃が国軍の反撃を引き出すことが目的だったと述べましたが、専門家は国際的な注目獲得、資金調達、兵士募集が真の目的だったと分析しています。
2018年8月25日、2017年の襲撃から1年を迎えた日に、ARSAはTwitter上でロヒンギャの保護と安全かつ尊厳ある帰還が正当な権利であると表明しました。2017年の襲撃では多数の死傷者が出たとされますが、中核メンバーは無事だったと伝えられています。しかし、それ以降、ARSAが大規模な武装闘争を行ったという情報は少なく、アタウラーも公の場に姿を現さなくなりました。
2020年には、新型コロナウイルスのパンデミックによりバングラデシュのコックスバザールにあるロヒンギャ難民キャンプの警備が手薄になった隙を突いて、ARSAのメンバーがキャンプ内に潜入したと報じられています。彼らはキャンプ内でみかじめ料の徴収や強制的な徴兵を行い始めたとされます。バングラデシュ政府はミャンマー側が難民帰還を拒否する口実とすることを避けるため、キャンプ内にARSAメンバーはいないとの公式見解を示していますが、2020年12月時点でおよそ1500人の勢力がキャンプ内に存在すると推定されています。
2021年のクーデター後、ミャンマーの情勢はさらに複雑化しました。2023年11月13日にラカイン族の武装勢力であるアラカン軍（AA）が停戦合意を破棄して国軍との戦闘を再開すると、ARSAはロヒンギャ連帯機構（RSO）、アラカン・ロヒンギャ軍（ARA）といった他のロヒンギャ系武装組織と共に国軍の指揮下に入り、AAと敵対する側に回りました。
また、コックスバザールの難民キャンプ内では、ARSAとRSOの間で激しい支配権争いが続いています。現在はRSOが優勢とされ、ロヒンギャの若者たちを強制的に徴募し、国軍へ送っていると伝えられています。両組織は互いのメンバーだけでなく、キャンプ内のロヒンギャ人リーダーや教育者を殺害したり、難民を誘拐して身代金を要求したりといった犯罪行為に関与していると報じられており、ロヒンギャ一般の人々からは、自身らを代表する組織ではなく、むしろテロ組織に近い存在として認識されている状況です。さらに、ARSAがラカイン族を含む非ムスリムの村々を襲撃し、住民を虐殺しているとの報道も複数あります。
2025年3月18日、指導者アタウラーがバングラデシュの当局によって逮捕されました。これにより、ARSAのスポークスパーソンを務めていたマウラナ・ボーハンが新たな組織の指導者に就任しました。
ARSAは、ロヒンギャ民族の権利保護という大義を掲げながらも、その活動は主要な襲撃事件による大規模な人道危機の発生や、難民キャンプでの犯罪行為、他の武装勢力との複雑な連携など、多岐にわたる側面を持っています。そのため、その位置づけや評価は非常に複雑であり、ロヒンギャ社会内部からも賛否両論がある組織と言えます。
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