コットン・マザー

コットン・マザー：ピューリタンの牧師、著述家、そして科学者

コットン・マザー（1663年2月12日 – 1728年2月13日）は、ニューイングランドにおけるピューリタン社会で大きな影響力を持った牧師であり、多作な著述家としても知られています。彼はまた、初期の雑種形成実験や予防接種の分野で科学的な功績を残し、一方でセイラム魔女裁判に関わった人物としても歴史に名を刻んでいます。

名門の家系とエリート教育

マザーは、ニューイングランドにおけるピューリタンの指導者というべき名門の家系に生まれました。父方の祖父は有名な賛美歌集を翻訳したリチャード・マザー、母方の祖父は著名な神学者ジョン・コットン、そして父はハーバード大学の学長を務めたインクリース・マザーという、錚々たる顔ぶれです。幼い頃から非凡な才能を発揮し、12歳でラテン語をマスター、ギリシア語の聖書を読み、ヘブライ語にも堪能であったと伝えられています。その才能を見込まれ、12歳という若さでハーバード大学に入学。1678年、15歳で同大学を卒業後、25歳でボストン第二教会の牧師という名誉ある地位に就きました。

著述家としての功績

マザーは、初期アメリカ文学において重要な位置を占める作家の一人であり、生涯にわたって膨大な著作を残しました。彼の代表作として知られる『アメリカにおけるキリストの大いなる御業』は、アメリカにおけるピューリタンの歴史、信仰、社会、文化を記録し、評価する上で非常に重要な文献です。この著作の中で、ジョン・ウィンスロップやウィリアム・ブラッドフォードといった初期のピューリタン指導者たちの業績を後世に伝えています。また、マザーの著書である『善行論』は、ベンジャミン・フランクリンが愛読したことでも知られています。

セイラム魔女裁判との関わり

マザーは、神、悪魔、そして魔女の存在を強く信じていました。そのため、1692年に起こったセイラム魔女裁判においては、ジョージ・バロウズの裁判を正当なものと見なし、彼の処刑後に混乱する群衆を鎮め、有罪判決の正当性を主張しました。しかし一方で、彼は霊的な証拠の採用には慎重であり、より具体的な証拠が必要であると考えていた側面もありました。この点において、マザーのセイラム魔女裁判における態度は、単純に魔女狩りを推進した人物として捉えることはできない複雑さを持っています。

コットン・マザーは、ピューリタン社会における重要な人物であると同時に、アメリカ初期の思想、文化、科学における複雑な影響力を持った人物でした。彼の生涯と著作は、当時の社会や思想を理解するための貴重な手がかりとなっています。

参考文献

板橋好枝、高田賢一編著『はじめて学ぶアメリカ文学史』（ミネルヴァ書房・1991年）
ワシントン・アーヴィング「スリーピー・ホローの伝説」。1819。- 小説。登場人物がコットン・マザーの書籍を読んでいる。

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