コネクシウィスパエラ・カリダ

はじめに

コネクシウィスパエラ・カリダ（Conexivisphaera calida）は、2019年にその存在が科学的に報告された、極めて興味深い古細菌の一種です。この微生物は、特に高温環境を好む「好熱性」であり、古細菌の中でも「タウム古細菌門」という大きなグループに分類されます。しかし、多くのタウム古細菌が地球上の窒素循環において重要な役割を果たすアンモニア酸化菌であるのに対し、コネクシウィスパエラ・カリダは全く異なる生理的特徴を持っています。これは、古細菌の多様性や進化を探る上で、非常に注目すべき点と言えるでしょう。

発見とそのユニークな性質

この特異な古細菌は、日本の栃木県にある有名な温泉地、塩原温泉から分離されました。具体的には、57℃程度でpH2.2という、微生物にとっては非常に厳しい酸性かつ高温の環境にある温泉水の中から見出されました。コネクシウィスパエラ・カリダの最も際立った特徴は、タウム古細菌門に属しながらも、酸素が存在しない嫌気的な条件下で有機物を分解してエネルギーを得る「従属栄養性」であるという点です。これは、同門の多くの仲間がアンモニアを酸化するという独立栄養的な代謝を行うのとは大きく異なります。

難培養性の克服

コネクシウィスパエラ・カリダは、「難培養微生物」としても知られています。これは、人工的な実験室環境で増殖させることが非常に困難であることを意味します。その生育には非常に狭い範囲の条件が要求され、温度は60℃から70℃（最適なのは約65℃）、pHは4.5から5.5（最適なのは約5.0）という特定の範囲内でなければ増殖できませんでした。この難培養性を克服するために、研究グループは特別な培養方法を試みました。彼らは以前にも、鉄イオンを培地に加えることで同じ温泉から別の難培養微生物（テルモトガ門の細菌）を分離した経験があり、その知見を活かして三価の鉄イオンを培地に添加し、様々な温度やpHの条件を丹念に検討しました。この粘り強い試行錯誤の結果、ようやくコネクシウィスパエラ・カリダの培養に成功したのです。

形態と代謝

細胞の形状は、直径が0.5から0.8マイクロメートル程度の不規則な球形をしています。光学顕微鏡や電子顕微鏡による観察からは、運動性を示す構造（鞭毛や繊毛など）は確認されておらず、自ら活発に動き回る能力はないと考えられています。生理的には厳格な偏性嫌気性であり、酸素が存在すると生育できません。炭素源およびエネルギー源としては、酵母エキスやペプトンといった有機物を主に利用します。そして、呼吸における最終的な電子の受け渡し役（最終電子受容体）として、分離に用いられた三価の鉄イオンの他にも、元素硫黄やチオ硫酸を利用できる能力を持っています。

ゲノム情報と水平伝播

ゲノム解析の結果、コネクシウィスパエラ・カリダの全ゲノムサイズは約159万塩基対であることが明らかになっています。このゲノム上には、およそ1608ヶ所の遺伝子がコードされていると推定されています。興味深いことに、この微生物が持つ硫黄を還元する能力に関連する特定の遺伝子は、別の古細菌グループである「クレン古細菌」から遺伝子の水平伝播、つまり異なる種間で遺伝子が受け渡される現象によって獲得された痕跡が見られると報告されています。これは、微生物の進化において遺伝子交換がいかに重要であるかを示す一例と言えるでしょう。

まとめ

コネクシウィスパエラ・カリダの発見は、タウム古細菌門の多様性に関する理解を深めると同時に、極限環境に生息する難培養微生物の研究における培養技術の重要性を示す事例となりました。特に、同門内で一般的な独立栄養とは異なる従属栄養性を示す点は、古細菌の代謝戦略の幅広さを示唆しており、今後の研究の進展が期待されます。そのユニークな性質は、地球上の生命の進化や多様性を探求する上で貴重な知見を提供しています。

もう一度検索