コム・オンボ神殿

コム・オンボ神殿は、古代エジプトのナイル川東岸に位置するコム・オンボの町にある、独特な設計を持つ神殿です。この神殿が最も特徴的なのは、「二重神殿（ダブル・テンプル）」という他に類を見ない形式を採用している点です。これは、神殿の内部空間が二つの異なる神に捧げるために、中央の主軸を挟んで左右に分かれ、それぞれに独立した入口、中庭、多柱室、そして至聖所（聖所）が備えられていることを意味します。

神殿の正面に向かって右側半分は、豊穣と世界の創造を司るとされるワニの姿をした神、セベクに捧げられています。セベクはしばしば、女神ハトホルや月神コンスと共に祀られていました。一方、左側半分は、天空の神であり大ホルスとしても知られるハヤブサの姿をした神、ハロエリス（ホルス・ジ・エルダー）に捧げられています。ハロエリスは特に治癒の神としての側面も持ち、病の平癒を願う人々からの信仰を集めていました。このような構成のため、神殿全体は主軸を中心に完全に左右対称のレイアウトとなっています。

神殿の建造は主にプトレマイオス朝時代に行われました。現存する構造の建設は、紀元前180年から紀元前145年にかけて統治したプトレマイオス6世の治世に始まりました。その後、プトレマイオス朝末期の王たち、とりわけプトレマイオス12世の時代（紀元前80年-紀元前51年）にかけて、内側および外側の多柱式の広間など、大規模な増築が進められました。さらに、プトレマイオス朝が終焉を迎えた後、ローマ帝国の支配下に入ってからも、ティベリウス帝（14年-37年）、ドミティアヌス帝（81年-96年）、カラカラ帝（198年-217年）といった皇帝たちの時代に増築が続けられ、最も外側の部分や前庭などが完成しました。神殿の歴史はさらに古く、第18王朝時代のファラオ、トトメス3世（紀元前1479年-紀元前1425年頃に在位）に遡る遺物も敷地内から発見されています。

神殿内部には、古代エジプトの信仰や生活を示す様々な浮き彫り（レリーフ）が残されています。特に注目されるのは、奥壁の内側に刻まれた浮き彫りです。これらは、当時の儀式で用いられた道具や、一連の外科手術で使用された器具類を描写している可能性が指摘されており、古代エジプトにおける医療技術の一端を示す貴重な資料とされています。治癒神ハロエリスが祀られている場所であることと関連付けられています。

長い歴史の中で、コム・オンボ神殿はナイル川の氾濫や地震、さらには他の建築プロジェクトのための石材転用などにより、その大部分が破壊されてしまいました。また、神殿がかつてコプト教徒によって教会として利用された時期があり、その際に一部のレリーフが意図的に損傷を受けた痕跡も見られます。しかし、19世紀末の1893年、フランスの考古学者ジャック・ド・モルガンの指揮のもと、神殿の残骸の片づけと修復作業が行われ、現在の姿が回復されました。

神殿の近くには、2012年2月に開館したクロコダイル博物館があります。この博物館では、コム・オンボを含むアスワン周辺で発見されたワニのミイラが多数展示されており、特に40体のワニの中から選ばれた22体のミイラを見ることができます。これは、セベク神がワニの姿で崇拝されたコム・オンボ神殿の歴史と深く結びついており、当時の信仰形態を物語る貴重な資料となっています。

コム・オンボ神殿は、そのユニークな二重構造と左右対称の美しさ、そして壁面に刻まれた詳細なレリーフを通じて、プトレマイオス朝からローマ時代にかけての古代エジプトの宗教、建築、さらには医療といった様々な側面を知ることができる、魅力的な遺跡です。ナイル川沿いを旅する観光客にとって、必見の場所の一つとなっています。

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