セベク

セベク（Sobek）

古代エジプト神話において、セベク（ソベク、ソブク、ソブキ、ソシェとも）は、ワニ（クロコダイル）の姿、またはワニの頭を持つ男性の姿で崇拝された神です。ギリシアではスコス（Suchos）として知られました。その名前は「妊娠するか否かを定める者」という意味を持つとされます。母は戦いの女神ネイト、妻は収穫の女神レネネトです。

概要

ナイル川に生活を大きく依存していた古代エジプト人にとって、ワニは強い脅威でした。セベクは、このワニが神格化された存在であり、それゆえに非常に畏怖されました。人々は、ナイル川とその主であるセベクに祈ることで、ワニの襲撃から保護されることを願いました。

セベクはまた、エジプトの一部の創造神話において、原初の混沌の海ヌトから最初に現れた存在とされ、世界の創造に関わったとされます。このことから、太陽神ラーと結び付けられ、創造神としての性格を持ちました。ナイル川の神であることから、豊かな実りをもたらす豊穣の神としても崇められました。母ネイトと同様、軍神としての側面も持ち合わせています。

姿

セベクは、完全にワニの姿で描かれるか、あるいはワニの頭部に人間の体を持つ姿で表されます。ワニ頭の際には、しばしばラーと同様の角と太陽円盤、そして二匹のコブラ（ウラエウス）を組み合わせた特徴的な頭飾りを装着しています。また、神聖視されたミイラ化されたワニとしても表現されました。

神話

セベクは、オシリスとセトの神話にも登場します。セトによって体をバラバラにされたオシリスの遺体がナイル川に散らばった際、女神イシスがそれを回収するのを助けたとされています。また、ホルスがセトと戦った時には、水上での戦いにおいてホルスを支援したという伝承がある一方で、セトに味方したという正反対の伝承も存在します。

崇拝

セベク崇拝の中心地は古くからファイユーム地方でした。この地はギリシア人に「クロコディロポリス」（ワニの町）と呼ばれるほど、セベク信仰が盛んな地域でした。特にエジプト第12王朝から第13王朝にかけて（紀元前1991年頃 - 紀元前1650年頃）、セベク信仰は絶頂期を迎え、一部の王は自身の即位名にセベクの名を取り入れるほどでした。セベクの神殿の多くは、ワニが自然に生息するナイル川沿いの地域に建立されました。

ファイユームと並ぶもう一つの主要な崇拝の中心地はコム・オンボ（オンボスとも呼ばれた）でした。ここはナイル川の砂州が近く、ワニが日向ぼっこをする姿がよく見られた場所です。コム・オンボでは当初セベクがセトと同一視された時期もありましたが、セト信仰の衰退と共にセベクの姿はワニそのものへと特化していきました。後代にはセトの存在が消去され、セトの神像がセベクやトートの像に置き換えられることすらありました。

セベクの神殿の中には、神聖なワニを飼育するための池を持つものもありました。これらのワニは最上級の肉を与えられ、人間によく慣れていたと言います。モエリス湖周辺でもセベクは崇拝され、末期王朝時代に至るまで、湖で飼育されたワニの頭部に宝石や黄金の装飾を施し、神聖な存在として扱いました。このワニはセベク自身であると信じられ、人々が捧げた供物をワニが食することで、神の恩恵が得られると考えられていました。

時代が下ると、セベクは太陽神ラーと習合してセベク・ラーとして崇拝されるようになりました。さらに後には大地神ゲブと同一視された例もあります。また、オシリス信仰においては、ホルスが父オシリスの遺体をナイル川から集める際にセベクの姿を借りたとされる伝承も存在します。

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