コモリザメ

コモリザメ：大西洋の穏やかな巨人

コモリザメ( Ginglymostoma cirratum)は、大西洋に生息する、比較的大型のサメです。その穏やかな外見とは裏腹に、独特の生態系を有しており、近年は生息数の減少も懸念されています。本稿では、コモリザメの形態、生態、人間との関わりについて詳しく解説します。

形態：丸い頭部と特徴的な髭

コモリザメは最大で430cmに達しますが、平均的な全長は3m程度です。その頭部は丸みを帯びており、口は眼よりもかなり前に位置しています。特徴的なのは、鼻孔にある1対の髭です。この髭は、海底の餌を探す際に役立つと考えられています。体色は黄褐色から灰褐色で、背びれは大きく丸みを帯びています。尾びれは長く、体長の約4分の1にも及びます。

生態：サンゴ礁の夜行性ハンター

コモリザメの主な生息環境は、サンゴ礁、マングローブ周辺、砂底などです。夜行性で、日中は小さな群れを作り、岩棚の下や岩の隙間などで休息します。同じ休息場所を毎日利用する習性も確認されています。夜になると単独で活動し、海底の堆積物中から餌を探します。

休息時には、胸びれを使って体を持ち上げるような姿勢をとることがあります。これは、岩陰と間違えて近寄ってくる小動物を捕食するためではないかと推測されています。餌は主に甲殻類、頭足類、ウニ、魚類などで、吸い込むようにして捕食します。地域や調査によって餌の種類は異なり、キューバでは小型のイセエビが、フロリダではイサキ科の魚類が主要な餌として報告されています。

幼魚は水深1～3mの浅瀬で生活しますが、成長するにつれてマングローブや浅い岩礁域へ移動し、成魚になるとより深い場所へ生息域を広げます。繁殖期には、成魚も浅瀬に姿を現します。幼魚はイタチザメやレモンザメなどの捕食対象となりますが、成魚には人間を除いては天敵はほとんどいません。

繁殖：卵胎生と長い妊娠期間

コモリザメの交尾は6月中旬から7月上旬に行われます。卵胎生で、胎児は12～14週間卵鞘に包まれた状態で発育します。妊娠期間は約5～6ヶ月で、一度に21～50匹（平均34匹）の子を産みます。新生児の大きさは約30cmです。次の出産までには2年間の期間を要します。性成熟には雌で223～231cm、雄で214cm程度に達する必要があります。寿命は最大で約25年と推定されています。

人間との関係：生息数の減少

コモリザメは、その肉や鰭が食用とされ、皮革も利用されてきました。しかし、生息環境であるサンゴ礁の破壊、乱獲、混獲、ペットや展示目的の捕獲などにより、生息数は減少傾向にあります。特に西大西洋個体群は、IUCNレッドリストでNEAR THREATENEDに指定されています。

分類：新種の発見と近縁種

2015年には、太平洋に生息する個体群が新種(Ginglymostoma unami)として記載されました。属名(Ginglymostoma)はギリシャ語で「蝶番のある口」を意味し、種小名(cirratum)もギリシャ語由来で「巻き毛」や「泳ぐ」という意味を持ちます。コモリザメの姉妹群はオオテンジクザメだと考えられており、タンビコモリザメ、ジンベエザメ、トラフザメとも近縁です。

まとめ：保全の必要性

コモリザメは、大西洋のサンゴ礁生態系において重要な役割を担う種です。しかし、人間活動による影響は深刻であり、その生息数の減少は生態系全体に悪影響を及ぼす可能性があります。コモリザメの保全のためには、生息環境の保護、持続可能な漁業管理、乱獲の防止などが不可欠です。今後の研究と保全努力が強く求められています。

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