コロンビア号空中分解事故

コロンビア号空中分解事故

2003年2月1日、アメリカのスペースシャトル「コロンビア号」が、テキサス州上空で空中分解し、7名の宇宙飛行士全員が命を落とすという悲劇が発生しました。この事故は、コロンビア号の28回目の飛行であるSTS-107ミッションの帰還中に起こりました。

事故の概要

事故の直接的な原因は、打ち上げ時に外部燃料タンクから剥がれ落ちた断熱材の破片が左翼前縁を直撃し、耐熱システムを損傷させたことでした。この損傷が、大気圏再突入時の高温に耐えられず、機体の空中分解を引き起こしました。

NASAの技術者の中には、打ち上げ後に機体の損傷を疑う声もありましたが、NASA幹部は「問題が発見されてもできることは少ない」として、本格的な調査を制限しました。この判断は、過去のミッションで断熱材の剥落が頻繁に発生していたにも関わらず、それが「許容範囲内のリスク」と見なされていたという背景がありました。

事故原因の詳細

コロンビア号の打ち上げから約82秒後、外部燃料タンクからスーツケースほどの大きさの断熱材が剥落し、左翼の耐熱保護パネルに衝突しました。この衝撃で、パネルに直径15〜20cmの穴が開き、大気圏再突入時に高温の空気が翼内部に侵入しました。

外部燃料タンクの断熱材は、以前から剥落が目撃されており、NASAはこれを「剥落流」と呼んでいました。しかし、過去に大きな事故がなかったことから、この問題を深刻に捉えていませんでした。これは、チャレンジャー号事故の原因となったOリングの欠陥問題と同様に、NASA幹部の間で「逸脱の標準化」が起きていたことを示しています。

飛行中の危機管理

NASAは、技術陣が要求した機体の損傷調査のための映像提供を拒否し、国防総省への支援要請も中止しました。この背景には、熱保護システムに損傷が発見されても打つ手がないというNASA上層部の考えがありました。

リスク評価の過程では、熱保護システムの損傷予測ソフトウェアが使用されましたが、このソフトウェアは過去の飛行データを基にしたもので、今回の事故のような大規模な断熱材の衝突を想定していませんでした。NASA幹部は、断熱材の密度が低いことを理由に、損傷予測を過小評価していました。

空中分解の瞬間

コロンビア号は大気圏再突入時、太平洋上空高度約120kmで大気圏に突入しました。機体表面の温度は6分間で約1,370℃に達します。

午前8時48分39秒（突入境界時+270秒）、左翼前縁のセンサーが、機体構造の桁に異常な張力が発生していることを計測しました。午前8時53分46秒（突入境界時+577秒）頃から、地上でも機体の異常が観測され始め、軌跡が明るくなるなどの現象が確認されました。

午前8時59分15秒（突入境界時+906秒）、左側降着装置のタイヤの圧力が失われ、午前8時59分32秒（突入境界時+923秒）には、機長の発言を最後に通信が途絶えました。午前9時00分18秒（突入境界時+969秒）、機体はテキサス州上空で空中分解しました。

大統領の反応

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、事故の一報を受けてホワイトハウスに移動し、「コロンビア号が失われた」と発表。国民に哀悼の意を表明するとともに、宇宙開発計画は継続すると宣言しました。

残骸の回収

飛行士の遺体や機体の残骸は、テキサス州東部からルイジアナ州、アーカンソー州南西部に至る広範囲に散乱しました。大規模な捜索活動が行われ、残骸が回収されました。

コロンビア号事故調査委員会

事故発生後、コロンビア号事故調査委員会（CAIB）が組織され、徹底的な調査が行われました。

CAIBは、断熱材の剥落が事故の直接的な原因であると結論づけ、NASAの組織風土や意思決定過程にも問題があったと指摘しました。また、NASAが過去に安全基準を逸脱する行為をしていたことも明らかになりました。

CAIBは、もしNASAが迅速に行動していれば、アトランティス号による救出や、船外活動による破損箇所の修復が可能だった可能性があったと指摘しています。

事故の社会的影響

コロンビア号の事故は、アメリカ社会に大きな衝撃を与えました。テロの可能性が疑われたり、メディアでは映画の映像が誤って使用されたりするなど、混乱も生じました。

事故後、様々な場所で追悼式典が行われ、飛行士たちの名前が様々な場所に冠せられました。NASAの宇宙開発計画にも大きな影響を与え、シャトル計画は一時中断され、国際宇宙ステーションの建設も遅延しました。

宇宙開発計画への影響

コロンビア号の事故後、シャトル計画は一時的に中断されました。しかし、ブッシュ大統領は「宇宙開発の展望」を表明し、シャトル計画の再開と国際宇宙ステーションの建設継続を指示しました。

2005年7月には、ディスカバリー号による初の「リターン・トゥ・フライト」ミッションが実施されました。しかし、その後も断熱材の剥落問題が再発し、シャトル計画の安全性に対する懸念が残りました。

関連作品

コロンビア号の事故に関するドキュメンタリー番組やオーケストラ作品が制作されています。事故の教訓を後世に伝えるための活動も行われています。

まとめ

コロンビア号の事故は、宇宙開発におけるリスク管理の重要性を示す教訓となりました。技術的な問題だけでなく、組織的な問題や安全に対する意識の甘さも、事故の原因となったことを忘れてはなりません。この悲劇を教訓に、宇宙開発は今後も安全性を最優先に進められるべきです。

もう一度検索