コンコルディア (ローマ神話)

ローマ神話の調和の女神コンコルディア

コンコルディアは、古代ローマにおいて協調、相互理解、そして婚姻の調和を司る女神です。ギリシア神話のハルモニアーに対応し、一部の信仰においてはアネリスと同一視されることもあります。対照的に、不和を象徴する女神ディスコルディア（ギリシア神話のエリスに対応）が存在します。

コンコルディアは、特にローマ皇室にとって重要な女神でした。皇帝や皇族によるコンコルディアへの奉納は頻繁に行われ、その信仰は国家の安定と繁栄に深く関わっていたと考えられます。

美術におけるコンコルディア

美術作品において、コンコルディアは通常、長い外套を身につけ、座った姿で描かれます。手に持つのは、パテラ（献酒杯）、コルヌー・コーピアエ（豊穣の象徴）、そしてカードゥーケウス（平和の象徴）などです。また、皇族らしき人物2人と手をつないで立っている姿や、他の女神たち（例えば、パークスとサルース、セキュリタスとフォルトゥーナなど）と共に描かれることも多くあります。後者の組み合わせは、安全と幸運を象徴するもので、時にはヘルクレスとメルクリウスがその役割を担うこともあります。

コンコルディアの神殿

ローマ市内には、コンコルディアを祀る複数の神殿が建てられました。最古の神殿は紀元前367年、マルクス・フリウス・カミルスによってフォルム・ローマーヌムに建設されたものです。

紀元前304年には、アエディリスのグナエウス・フラウィウスが、コンコルディアの青銅製小神殿をグラエコスタシス（ギリシア風の柱廊のある広場）内に、ウゥルカーヌスの神域近くに建立しました。これは、貴族との和解を祈願して建てられたもので、建設費用は元老院ではなく高利貸しからの罰金から賄われたと伝えられています。この小神殿は、紀元前121年の主神殿の拡張工事の際に取り壊されました。

カピトリーヌスの丘の城塞内にもコンコルディア神殿が建立されています。紀元前218年、プラエトルのルキウス・マンリウスが、ガリア・キサルピナにおける反乱鎮圧を記念して建てたと考えられています。着工は翌年で、紀元前216年2月5日に献堂式が行われたと伝えられています。

また、ユリウス・カエサルはローマ内戦終結を記念してコンコルディア・ノウァ神殿の建設を計画したとされていますが、実際に建設されたかどうかは不明です。

さらに、オウィディウスの『祭暦』には、リウィア・ドルシッラがコンコルディアに神殿を建てたと記されていますが、これ以外の文献上の裏付けはありません。この神殿は、リウィアのポルチコに隣接していたか、あるいはその中にあった可能性が示唆されています。しかし、神殿の規模を考えると、オウィディウスの記述にある「壮麗な」という表現と矛盾する可能性があります。

ポンペイにおいても、高位の女性神官エウマキアがコンコルディア・アウグスタに建物を捧げていました。

これらの神殿の存在は、コンコルディア信仰がローマ社会において広く浸透し、人々の生活に深く根付いていたことを示しています。国家の安定、社会の調和、そして個人の幸福を願う人々の強い信仰心が、これらの神殿建設を後押ししたのでしょう。

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