アエディリス

アエディリス：古代ローマの都市運営を担った官職

アエディリス（aedilis）は、古代ローマにおいて都市の管理運営に重要な役割を果たした政務官です。日本語では按察官や造営官などと訳され、その任務は多岐にわたりました。主に公共建築物の維持管理、ローマの祭儀の監督、都市の治安維持など、ローマの都市生活に不可欠な業務を担っていました。

アエディリスの種類と歴史

アエディリスには2つの種類が存在しました。当初は平民（プレブス）のみが就任できる「アエディリス・プレビス」でしたが、紀元前367年に貴族（パトリキ）のみが就任する「アエディリス・クルリス」が新設されました。この2つは同僚の関係ではなく、それぞれが独立した公職でした。

「アエディリス・クルリス」は、神聖な権威の象徴として象牙の椅子（セッラ・クルリス）の使用が許されており、上級のアエディリスとして扱われました。一方、「アエディリス・プレビス」は、平民のアエディリスと訳されます。しかし、神々に捧げる祝祭（ludi）を執り行う際には、「アエディリス・プレビス」であってもトガ・プラエテクスタ（高官の着用する紫の縁取りのあるトーガ）の着用と象牙の椅子の使用が認められました。

この祝祭には、ケレース祭（ludi Ceriales）、フローラ祭（ludi Florales）、ユピテル祭（ludi Romani、ローマ祭）の3種類があり、ケレース祭は平民、ユピテル祭は当初平民が担当しましたが、クルリスが増員されてからはクルリスが担当していました。フローラ祭については、紀元前240年から始まったとされています。

ティトゥス・リウィウスによると、紀元前367年のリキニウス・セクスティウス法制定の際、執政官の一人をプレブスから選出、プラエトルの一人をパトリキから選出することを決定した際、ローマ祭を延長しようとしたプレブスをパトリキが拒否。その結果、パトリキのアエディリスを選出することになったという経緯が記されています。

また、硬貨のデザインなどから、ルキウス・コルネリウス・スッラの独裁以降、「アエディリス・クルリス」と「アエディリス・プレビス」の間に実質的な差はなくなったと考える学者もいます。

アエディリスの権限と特権

キケロによれば、アエディリスには、元老院での優先的順位、トガ・プラエテクスタの着用、象牙の椅子の使用、デスマスク（imago、イマーゴ）を残す権利（ius imaginis）が与えられました。この「イマーゴ」の権利については様々な解釈があり、葬儀の際に役者などにマスクを被せて葬列に加わる特権であるとする説や、公共の場に像を建てる権利が含まれていたとする説などがあります。

アエディリスの歴史とキャリアパス

アエディリスという官職は、護民官と同じ紀元前494年頃に設置されました。当初は護民官を補佐する役割でしたが、後に政治的な野心を持つ若者が「クルスス・ホノルム」（官職歴任の道）の第一歩として利用するようになりました。特に、「アエディリス・クルリス」は、後のコンスル（執政官）就任への重要なステップと位置づけられていました。紀元前44年には、ガイウス・ユリウス・カエサルによって、ローマへの穀物流通を専門に管理するアエディリス職が設置されました。

アエディリスの任務

アエディリスの任務は多岐にわたり、ローマの都市生活を円滑に維持するために重要な役割を果たしていました。

都市機能の管理: 公共の道路、水道、下水道などのインフラを維持・管理しました。
流通機能の管理: 市場や店舗の監督を行い、物価の安定を監視しました。
祭儀の管理: 神々に捧げる祝祭の企画・運営を担いました。
公共建築の管理と補修: 神殿、劇場、競技場などの公共建築物の維持・修繕を行いました。
治安維持: 都市内の治安を監視し、法の違反者には罰金を科す権限を持っていました。
物価安定: 物価を監視し、不安定な際には介入する権限を持っていました。
* 祝祭の管理: 神々に捧げる祝祭（ludi）や、政治家個人の催し物（剣闘士試合など）の管理・調整を行いました。

このように、アエディリスは古代ローマ社会において、都市の運営と市民生活を支える上で非常に重要な役割を担っていた官職でした。

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