コンセルトヘボウ

オランダの首都アムステルダムに位置するコンセルトヘボウ（オランダ語: Concertgebouw）は、世界的に有名なコンサートホールです。特にその優れた音響で知られており、ボストンのシンフォニーホールやウィーンのウィーン楽友協会と並び称される、シューボックス型ホールの傑作として評価されています。創建当時の姿を現代に伝える貴重な建築物でもあります。

「Concertgebouw」の正確なオランダ語発音は「コンセルトヘバウ」に近いとされていますが、日本では一般的に「コンセルトヘボウ」という名称で定着しています。

沿革と施設概要

コンセルトヘボウは、市内にあった古い音楽ホールに代わる新たな拠点として、1881年に設立された「コンセルトヘボウ協会」の主導で計画されました。設計コンペを経てA.L.ファン・ヘントの案が採用され、1888年 4月11日に落成、同月中にこけら落としが行われました。以来、ここは名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の本拠地として使用されています。

ホールには、主要な公演が行われる大ホールと、より小規模なアンサンブルなどに向いた小ホールがあります。

大ホール: 2037席を有し、観客がいない状態での残響時間は2.8秒という理想的な響きを実現しています。
小ホール: 478席を備え、親密な雰囲気の中で演奏を楽しむことができます。

多様なプログラムと観客体験

コンセルトヘボウでは、クラシック音楽を中心に据えつつも、ジャズ、民族音楽、さらにはかつてロックなど、非常に幅広いジャンルの公演が催されています。おおよそ、クラシックが5割、ジャズが3割、その他が2割という比率でプログラムが組まれており、多様な音楽ファンを惹きつけています。

特徴的なのは、多くの公演にスポンサーが付いているため、チケット価格が通常20ユーロから30ユーロ程度と比較的安価に設定されている点です。さらに、チケットのほとんどには、購入日当日に限り、アムステルダム市営交通会社（GVB）の全線が無料で利用できる特典が付帯しています。ホールはトラムやバスの路線が多数乗り入れている便利な場所にあり、この特典のおかげで、普段はカジュアルな服装の人が多い市内の公共交通機関に、コンサートの開演・終演時間に合わせて正装した人々が多く見られるという、オランダらしい光景が生まれています。

厳格なドレスコードは設けられておらず、服装を理由に入場を断られることはありませんが、演目や時間帯に応じて自身の装いを判断することが推奨されています。

定期的なプログラムとしては、夏季を除き、ほぼ毎週水曜日の昼に無料のランチコンサートが開催されます。新進気鋭の演奏家による演奏や、時には大ホールのゲネプロを兼ねることもあり、無料でありながら質の高い音楽を楽しむ機会として親しまれています。また、日曜日には家族向けの安価なコンサートも催されています。

その他にも、ホール内部を見学できるツアーや、専門家による器楽レッスンの開催など、コンサート以外の催しも充実しています。

建築とその変遷

A.L.ファン・ヘントによって設計されたホールの建物は、ネオ・ルネサンス様式と新古典主義様式を折衷した、威厳あるファサードが特徴です。興味深いことに、音楽堂建築の専門知識を持っていなかったとされるヘントが設計した大ホールは、本来、音響には不向きとされる体育館のような直方体形状をしており、採光用の大きな窓まで備えていました。しかし、実際にオーケストラを入れて演奏してみると、奇跡的ともいえる素晴らしい残響効果が偶然にも生まれたのです。

建設地は帯水層の上に広がる干拓地であり、特にアムステルダム南郊にあたるこの地域は地盤が非常に軟弱でした。1万トンを超えるホールの重量は、当初打ち込まれた2186本の木製支持杭をもってしても地盤沈下を招き続け、慢性的な問題を抱えていました。1983年には倒壊寸前の危機を迎えるほど深刻化しましたが、大規模な改修工事が行われ、帯水層の下まで達するコンクリート基礎が構築され、支持杭も400本の強固な金属製に置き換えられました。

さらに1988年には、建物の東側（向かって左手）に、構造補強と歴史的構造の保護を兼ねた現代的な新エントランスが増築されました。これはP.デ・ブラインの設計によるもので、鉄骨とガラスを用いた2層構造を持ち、インフォメーションやチケットカウンター、カフェなども収容されています。

幾多の困難を乗り越え、その卓越した音響と歴史的・建築的な価値を守りながら、コンセルトヘボウは今日も世界中の人々を魅了し続けています。

もう一度検索