コンピュータースペース

世界初のアーケードビデオゲーム『コンピュータースペース』

『コンピュータースペース』は、1971年にノーラン・ブッシュネルによって開発され、ナッチング・アソシエーツ社から発売された、世界初のアーケードビデオゲームです。このゲームは、後のビデオゲーム業界に大きな影響を与えることとなりました。

開発までの道のり

ユタ大学工学部に在籍していたブッシュネルは、PDP-1用のコンピュータゲーム『スペースウォー!』に魅了され、アーケードゲームの開発を志しました。彼は大学時代に『キツネとガチョウ』というゲームを制作しましたが、当時のコンピュータが高価だったため、市販化を断念していました。

その後、ブッシュネルはアンペックス社に勤務していましたが、1970年に半導体の価格が劇的に低下したことを知り、自宅の一部を改造してゲーム開発に没頭しました。彼は、SF好きであったことから、惑星直列を意味する「Syzygy（シジギ）」という会社を設立し、この自宅を所在地として登記しました。実際には、辞書から適当に選んだ単語であったといいます。そして、アンペックス社の同僚であるテッド・ダブニー、ラリー・ブライアンと共にナッチング・アソシエーツ社に移籍し、ついに『コンピュータースペース』の発売にこぎつけました。

ゲーム仕様

ゲーム内容は、基本的に『スペースウォー!』を踏襲していますが、1人用ゲームとして設計されています。そのため、隕石やUFOが追加され、これらを避けながら撃ち落とすという内容になっています。星空の描写は、当時の技術的な制約から、画面全体に星を表す点が無数に打たれ、後の宇宙系シューティングゲームを彷彿とさせるものでした。この試みは、当時のゲームとしては画期的でしたが、描画処理の負荷が増加し、速度低下を招く要因にもなりました。

当時の集積回路はまだ普及していなかったため、TTL（Transistor-transistor logic）基板が用いられました。キャラデザインのデータはROMではなく、ダイオードをドットマトリックス状に並べて作成されました。この手法は、後にブッシュネルが創業するアタリでも採用され、集積回路が普及するまでのアーケードビデオゲーム黎明期の手法として広く使われました。

筐体は、ブッシュネルがデザインを依頼したもので、FRP製の未来的な曲線で構成され、赤・青・黄・緑の4色が用意されました。製造台数は1500台で、1971年10月にアーケードゲーム業界ショーで発表された後、発売が開始されました。

販売後の苦難

しかし、『コンピュータースペース』は、発売後に人気を得ることはありませんでした。ブッシュネルは、その原因を以下のように分析しています。

ゲームの操作が難しく、インストラクションカードを読まないとプレイできなかった。
ロケテストでは男子大学生には人気があったものの、他の年齢層や性別、職業からは全く支持されなかった。
当時の技術では、『スペースウォー!』のような滑らかな映像を再現できず、画面がぼやけていた。
キャラを多数表示していたため、処理速度が遅かった。
ナッチング社自体が経営難で、広告による宣伝が不十分だった。

『コンピュータースペース』の失敗後、世界初の家庭用ゲーム機「オデッセイ」のプライベートショーが全米で行われるという知らせがブッシュネルの耳に入りました。それを見たブッシュネルは、より簡単なゲームが必要だと考え、1972年に新しいゲーム会社を設立することを決意しました。当初、社名をSyzygyにしようとしましたが、すでに同名企業が存在していたため、断念しました。そして、ダブニーと共に「アタリ」を設立しました。

『コンピュータースペース』から『ポン』へ

アタリ設立後、ブッシュネルは史上初のビデオゲームヒット作『ポン』を開発します。そこには、『コンピュータースペース』での反省が活かされていました。

コインボックスは、『コンピュータースペース』ではコーヒー入れ、『ポン』では牛乳瓶入れを再利用した。
ロケテストは、『コンピュータースペース』では酒場「ダッチグース」が最初、『ポン』では二番目だった。
酒場「アンディキャップス」では、『コンピュータースペース』が二番目、『ポン』が最初だった。
『ポン』のチラシには「開発Syzygy・発売アタリ」と書かれていた。

影響と余談

『コンピュータースペース』は商業的には失敗に終わりましたが、その後のビデオゲーム業界に大きな影響を与えました。また、1973年の映画『ソイレント・グリーン』や1975年の映画『ジョーズ』にも登場しており、当時の社会的な関心を集めていたことが伺えます。

『コンピュータースペース』は、その後のビデオゲームの歴史を切り開くための重要な一歩であり、その開発者ノーラン・ブッシュネルの挑戦は、今もなお、多くのゲームクリエイターに影響を与え続けています。

参考資料

NHKスペシャル 新・電子立国 第4巻 ビデオゲーム・巨富の攻防: ISBN 4-14-080274-X
それは『ポン』から始まった:赤木真澄 アミューズメント通信社 ISBN 4-9902512-0-2 C3076

関連情報

Atari History Museum（英語）
* Killer List of Videogames（英語）

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