コンプレッサー (音響機器)

コンプレッサー：音のダイナミクスを制御する技術

コンプレッサーは、音の強弱の差であるダイナミックレンジを縮小するオーディオ機器です。音楽制作や放送、無線通信など幅広い分野で使用され、音質の調整や信号の強化に役立ちます。

コンプレッサーの仕組み

コンプレッサーは、入力されたオーディオ信号のレベルが設定値（スレッショルド）を超えると、その超過分をあらかじめ設定された比率（レシオ）で減衰させる働きをします。例えば、レシオが4:1であれば、入力レベルがスレッショルドを4dB超えると、出力レベルは1dBしか増加しません。

この減衰は、アタックタイムと呼ばれる時間をかけて徐々に開始され、リリースタイムと呼ばれる時間をかけて元の状態に戻ります。これらのパラメーターを調整することで、音の質感やダイナミクスの変化を細かく制御できます。

コンプレッサー内部では、入力信号を増幅し、整流して平滑化することでフィードバック信号を得ます。この信号を使って、増幅回路を制御し、圧縮効果を実現します。増幅回路には、VCA（電圧制御増幅回路）、OTA（オペレーショナルトランスコンダクタンスアンプ）など様々な技術が用いられています。

コンプレッサーには、単機能の製品だけでなく、様々なエフェクトを組み合わせたマルチエフェクターに組み込まれたものもあります。また、圧縮後の音量低下を補償する後段増幅回路を内蔵した機種も存在します。後段増幅器内蔵型は、無音時にノイズが顕在化するため、ノイズゲートと組み合わせた製品が多いです。

ダイナミックレンジ圧縮の構成

ダイナミックレンジの圧縮は、大きく分けて2つの方法があります。

1. ダウンワードコンプレッション: 最大音量部分を減衰させ、後段で全体の音量を増幅する手法です。ほとんどのコンプレッサーはこの方法を採用しています。
2. アップワードコンプレッション: 最小音量部分を増幅し、後段で全体の音量を減衰させる手法です。音量増加による過大な信号電圧のリスクがあるため、製品化されているものは少ないです。

コンプレッサーの設定は、まず圧縮率（前段）を調整し、次に全体の音量（後段）を調整するのが一般的です。ダウンワードコンプレッションでは、コンプレッサーとリミッターの機能が統合された製品もあります。

コンプレッサーの使用例

楽器

ギターでは、音の粒を揃えたり、サスティンを伸ばしたりするのに使われます。アタックタイムを調整することで、ピッキングのニュアンスを強調することも可能です。しかし、圧縮しすぎると音の歪みや音質変化、ピッキングニュアンスの消失といった問題が発生する可能性があります。ベースやドラム、ボーカルなど、様々な楽器に適用できます。

マスタートラックに適用し、音量を増幅することで「音圧を上げる」という手法も用いられます。しかし、ダイナミックレンジが狭まり、曲の強弱が失われる可能性があるため注意が必要です。過度のコンプレッションは、原音にない歪みを生むため、控えめに使用する必要があります。

声

声の録音では、歯擦音（「エス」の音）を除去するために使用されることがあります。これは、歯擦音の周波数帯域のみを圧縮する「ディエッシング」という手法です。

無線通信

アマチュア無線では、SSB信号の送信出力の平均値を高めるため、また受信信号のSN比を改善するために使用されます。多くのSSBトランシーバーに組み込まれています。陸上移動無線や業務用ウォーキートーキーの音声送信、遠隔操作での電話転送などにも用いられています。

まとめ

コンプレッサーは、音のダイナミクスを制御し、音質を向上させるための重要なツールです。その仕組みや使用方法を理解し、適切に使うことで、より効果的なサウンドメイクが可能になります。ただし、過剰な使用は音質劣化につながるため、注意が必要です。 様々なパラメーターを調整することで、繊細な音作りから大胆な効果まで、幅広い表現を実現できます。

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