コーヒーハウス

コーヒーハウスの歴史とその影響

コーヒーハウスは、17世紀半ばから18世紀にかけてイギリスで流行した独特の喫茶店であり、社交の場として重要な役割を果たしました。その起源はイスラム世界にさかのぼり、特にオスマン帝国のイスタンブールにおいて、世界初のコーヒーを提供する施設が誕生しました。これはカフヴェハーネと呼ばれ、コーヒーを飲みながら社交を楽しむ場所としての機能を持っていました。

ヨーロッパへとコーヒーが広がりを見せるようになったのは、17世紀半ばのことで、特に交通の要所であったヴェネツィアでその初めが見られます。その流れを受けて、1650年に初めてオックスフォードに現れたコーヒーハウスは、当時の清教徒革命期に登場しました。オックスフォードで開業したのはユダヤ人の商人ジェイコブで、これがイギリス初のコーヒーハウスとされています。続いて1652年にはロンドンにもコーヒーハウスが続々と開店し、特に1660年の王政復古や1666年のロンドン大火を経て、これらの店は人々の集いの場として賑わうようになりました。

コーヒーハウスには酒はなく、代わりにコーヒーやチョコレート、さらにたばこが楽しめる空間として、多くの客が集まりました。ここでは新聞や雑誌を読みながら、客同士が政治や社会についての議論を交わしていました。このような談義が進む中、コーヒーハウスは近代市民社会を形成する上での重要な拠点となり、イギリスの民主主義にも影響を与えるとされています。フランス革命におけるカフェとの比較でもその役割の重要性が指摘されています。

当時のイングランド王、ジェームズ2世はコーヒーハウスにおける自由な政治談議を警戒し、1675年には閉鎖命令を出しましたが、これが多くの反発を招き撤回される結果となりました。王政復古に伴う内乱は、社会に流動性をもたらし、結果として階層を超えた社交の場を形成していきました。コーヒーハウスは、異なる階層の人々が共通の話題で集うことで、伝統的な社会構造を打破する場所ともなったのです。

情報収集の面でもコーヒーハウスは重要な役割を果たしました。ギャラウェイ・コーヒー・ハウスなど、金融業者や商人が集まる店では、新たな情報を得るために多くの人々が集いました。また、ロイズ・コーヒー・ハウスは船舶情報の提供を行い、それが後のロイズ保険会社に繋がるなど、経済活動との密接な関係も見られました。

このように活発な社交の場として栄えたコーヒーハウスは、特にアン女王の時代に最高潮に達しましたが、18世紀後半からは次第に衰退していきました。それに伴い、酒場や宿屋に変わる店も多く見られるようになりました。

興味深いことに、コーヒーハウスは紅茶の普及にも寄与しました。コーヒーハウスという社交の場を通じて、上流階級と下層階級が異なる楽しみ方をしつつも、次第に下層の紅茶が家庭に浸透していきました。1737年にはイギリス初のティーハウスが登場し、そうした流れは現在の砂糖入り紅茶を飲む文化へと繋がっています。コーヒーから紅茶へのシフトは、イギリスの市民生活において重要な変化をもたらしたのです。

もう一度検索