コールド・スプリング・ハーバー研究所

コールド・スプリング・ハーバー研究所（CSHL）

コールド・スプリング・ハーバー研究所（Cold Spring Harbor Laboratory, 略称: CSHL）は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ロングアイランドに位置する私立の非営利研究機関です。その目的は、生物学および医学における最先端の研究活動と教育プログラムの推進にあります。世界的にその卓越した科学的成果で知られ、これまでに数多くのノーベル賞受賞者を輩出してきました。研究所はその名称に、近隣の著名な港町であるコールド・スプリング・ハーバーの名を冠していますが、実際の所在地はサフォーク郡ハンティントン町の西隣に位置するナッソー郡ローレル・ホロー村となっています。

歴史的背景

CSHLの起源は、19世紀末から20世紀初頭にかけてこの地に設立された二つの研究施設に遡ります。1890年にはブルックリン財団が生物学研究所を、続いて1904年にはワシントン・カーネギー協会が実験進化研究所をそれぞれ開設しました。カーネギー協会による研究所は、1921年にカーネギー研究所の遺伝学部門となり、遺伝学の分野で重要な役割を果たしました。そして、1962年にこれら二つの研究所が統合され、現在のコールド・スプリング・ハーバー研究所が誕生しました。

20世紀前半、研究所は優生学の研究拠点としても活動していました。特に「優生記録所」が設置され、優生学者チャールズ・ダベンポートとハリー・ラフリンが「劣悪人物の家系に関する研究」と称する調査を行いました。この研究は、当時のアメリカにおける移民排斥運動に理論的な根拠を与えるものとされ、さらにはナチス・ドイツの思想との関連性も指摘されています。しかし、この施設および研究内容は1935年に科学的妥当性に欠けるとして問題視され、閉鎖に至りました。

その後の1940年代に入ると、CSHLは分子生物学の黎明期における重要な舞台となりました。1944年には、バーバラ・マクリントックがトウモロコシを用いた研究でトランスポゾン（動く遺伝子）を発見し、この功績により1983年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。また、マックス・デルブリュックとサルバドール・ルリアらは、ファージ・グループとして知られる共同研究を通じてCSHLをバクテリオファージ研究の中心地とし、さらにはアルフレッド・ハーシーとマーサ・チェイスが行った有名な実験によって、DNAが遺伝物質であることを決定的に証明しました。この成果はハーシーとルリアらに1969年のノーベル医学生理学賞をもたらしました。その他にも、イントロン構造を発見し1993年にノーベル医学生理学賞を受賞したリチャード・ロバーツとフィリップ・シャープ、そして1962年にノーベル医学生理学賞を受賞後に2007年まで研究所の所長および会長を務めたジェームズ・ワトソンなど、多くのノーベル賞受賞者がCSHLで研究活動を行いました。

研究振興と教育活動

CSHLは、所内での自らの研究に加え、広く研究コミュニティ全体の振興と次世代の育成にも力を注いでいます。1933年に設立された出版部門であるCold Spring Harbor Laboratory Press（CSH Press）は、以来、多数の権威ある学術誌や研究者向けの学術書、詳細な実験プロトコル集などを刊行し続け、科学知識の普及に貢献しています。

また、2013年11月からは、生物学分野に特化した無料のプレプリントサーバーであるbioRxiv（バイオアーカイブ）の運営を開始しました。これは、研究成果を査読前でも迅速に公開・共有するためのプラットフォームとして、今日の生物学研究において重要な役割を果たしています。

さらに、CSHLは様々な集中講義や国際的な研究会を多数開催しています。特に、分子生物学草創期である1948年にルリアとデルブリュックが始めたファージ・コースは、この分野の多くの先駆者を育てた伝説的なプログラムとして知られています。1934年から毎年開催されている「コールド・スプリング・ハーバー研究所定量的生物学シンポジウム（Cold Spring Harbor Laboratory Symposium on Quantitative Biology）」は、常にその時点での最先端の研究テーマを取り上げ、多くの著名な科学者が集まる場となっています。これらの専門家向けのプログラムに加え、高校生や大学生を対象とした科学指導プログラムも提供し、若い世代の科学への興味関心を育んでいます。

アクセス方法

ニューヨーク市内から公共交通機関を利用する場合、アムトラックやロングアイランド鉄道が発着するペンシルベニア駅（Penn Station）から、ロングアイランド鉄道（LIRR）のハンティントンまたはポート・ジェファーソン方面行きに乗車し、サイオセット駅（Syosset Station）で下車するのが一般的です。所要時間はおよそ1時間です。サイオセット駅からは研究所が運行するシャトルバスを利用できます。運行中のバスがいれば無料で乗車可能ですが、いない場合は研究所に電話することで迎えに来てもらうことができます。なお、研究所の名を冠するコールド・スプリング・ハーバー駅（Cold Spring Harbor Station）も存在しますが、こちらにはシャトルバスは運行していませんのでご注意ください。

主要な空港からのアクセスは以下の通りです。

ジョン・F・ケネディ国際空港（JFK）: 日本からの国際便が多く発着します。エアトレインJFKを利用してロングアイランド鉄道のジャマイカ駅（Jamaica Station）へ移動します。エアトレイン乗車時は改札がありませんが、降車時に改札内で5ドルのMTAカードを購入し、改札機を通して外に出ます。ジャマイカ駅からは、ペンシルベニア駅からのルートと同様にLIRRのハンティントンまたはポート・ジェファーソン方面行きに乗車し、サイオセット駅で下車してください。
ラガーディア空港（LGA）: 主にアメリカ国内線が発着します。MTA路線バスQ70-SBS（Select Bus Service）を利用し、終点であるロングアイランド鉄道のウッドサイド駅（Woodside Station）へ移動します。ウッドサイド駅からは、ジャマイカ駅からのルートと同様にLIRRに乗車してください。
* ニューアーク・リバティー国際空港（EWR）: マンハッタンを挟んで反対側に位置するため、CSHLへのアクセスにはあまり推奨されません。万一こちらに到着した場合は、空港ターミナルからエアトレインで繋がっているニューアーク・リバティー国際空港駅から、ニュージャージー・トランジットまたはアムトラックを利用してニューヨークのペンシルベニア駅へ向かいます。直通列車であれば所要時間は30分以内、料金は約15ドル程度です。ペンシルベニア駅到着後は、上記のニューヨーク市内からのルートをご参照ください。

（注釈および外部リンクは、一般的な辞書形式のため省略します。）

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