ゴンドファルネス
ゴンドファルネス（GondopharnesまたはGondophares、ペルシア語形はヴィンダファルナとされる）は、紀元20年頃に在位したと推定される、インド・パルティア王国の建国者とされる君主です。特にキリスト教の聖トマス伝承に登場するインドの王、グンダファルと同一視されることで広く知られています。
彼は、古代パルティア王国において王族とも関連が深かった大貴族、スーレーン氏族の出身です。パルティア王国は、ミトラダテス2世の治世末期以降、内部の混乱が続いており、その中でスーレーン氏族は特に東部地域で影響力を強めていました。1世紀頃、スーレーン氏族の有力者として台頭したゴンドファルネスは、ミトラダテス2世時代以降にアラコシアやドランギアナといった地域に移住していたサカ人（スキタイ系遊牧民）を征服し、さらにそれまで北西インドに勢力を築いていたインド・スキタイ王国の最後の王アゼス2世らの支配領域を引き継ぐ形で、広大な領土を獲得しました。こうして、現在のアフガニスタンの一部、パキスタン、そしてインド北西部に及ぶ巨大な「インド・パルティア王国」を築き上げたとされています。ただし、アゼス2世らの具体的な出自や、ゴンドファルネスとの関係性の詳細は明らかになっていません。
歴史家ユスティヌスの記録には、この時期にカブール川上流域に存在したギリシア系の王国がパルティア人によって滅ぼされたとありますが、この「パルティア人」がゴンドファルネスを指すという説も存在します。彼の正確な在位年数は不明確ですが、およそ30年近くにわたって統治を続けたと考えられています。ゴンドファルネスの死後、王位は甥とされるアブダガセス1世に引き継がれましたが、その後は最後の王とされるパコレスや、名門アスヴァヴァルマ家のササといったパルティア人やサカ人の総督たちが各地で独立の動きを見せ、王国の支配領域は急速に縮小・分裂していきました。彼らが互いに争っていた様子は、『エリュトゥラー海案内記』などのわずかな史料からも伺うことができます。
ゴンドファルネスの具体的な統治政策については、ほとんど情報が残されていません。彼の勢力範囲の推定は、主に彼が発行したコインの出土状況に基づいています。また、アゼス2世時代に権力を持っていた地方の領主が、ゴンドファルネスの統治下でもその地位を維持していた事例が知られており、彼の支配体制は、土着の支配者たちに自身の覇権を認めさせることで成立していたと考えられています。このため、彼の死後、広大な領土が容易に分解へと向かったと見られています。
ゴンドファルネスは、当時のパルティア本国の支配者たちと同様に、ヘレニズム世界由来の称号を用いていたことが分かっています。
といった称号が使用され、さらにサンスクリット語では「マハーラージャ」（大王）の称号も併用されました。発行されたコインの様式は、パルティア風のものとサカ風のものが並行して見られ、彼の支配領域においてサカ人の影響力が強かったことを示唆しています。
キリスト教の伝説の一つである「聖トマス伝」には、インドに伝道を行った使徒聖トマスと、彼を受け入れたインドの王グンダファルの物語が記されています。伝承によれば、使徒たちが分担して伝道地を決める際、インド行きを割り当てられた聖トマスは気が進まずためらっていました。折しも、インドの王グンダファルが宮殿建設のため大工を探しており、使者ハッバーンをシリアに送りました。主イエスは、聖トマスをハッバーンに奴隷として売り渡し、インドへ旅立たせたのです。インドに着いた聖トマスはグンダファル王から宮殿建設を命じられ、建設資金を与えられましたが、彼はその全てを貧しい人々に分け与えました。これは、地上の宮殿ではなく天国にこそ真の宮殿を建てるべきだと説いたためでしたが、王は激怒し聖トマスを投獄します。ところが、王の弟ガドが一時的に死んで天国へ行くと、そこで聖トマスの善行によって築かれた輝かしい宮殿を目にします。ガドは奇跡的に蘇生し、この出来事をグンダファル王に語りました。これに心を動かされたグンダファル王は、キリスト教信仰を受け入れたとされています。
この伝承に登場するグンダファル王が、史実のゴンドファルネスと同一人物であることはほぼ確実視されています。ただし、伝承中の王弟ガドについては、その実在を確認する史料はありません。ゴンドファルネスが発行したコインの中には、彼の名をグダ（Guda）やガダ（Gada）と短縮して記したものがあり、これが別人、特に弟の名前と誤認された結果、ガドという弟の存在が伝承に組み込まれたのではないかと推測されています。
ゴンドファルネス自身が実際にキリスト教に改宗したかどうかについては、歴史的な議論があります。彼の初期のコインには勝利の女神ニケなどが刻まれており、当初はヘレニズム文化の影響が強かったことが伺えます。しかし、後に「神に忠実なる者」といった、当時の支配者としてはあまり一般的ではない称号を用いたことが知られており、これが彼がキリスト教に改宗した可能性を示す有力な証拠の一つとして挙げられることがあります。
来歴と勢力拡大
彼は、古代パルティア王国において王族とも関連が深かった大貴族、スーレーン氏族の出身です。パルティア王国は、ミトラダテス2世の治世末期以降、内部の混乱が続いており、その中でスーレーン氏族は特に東部地域で影響力を強めていました。1世紀頃、スーレーン氏族の有力者として台頭したゴンドファルネスは、ミトラダテス2世時代以降にアラコシアやドランギアナといった地域に移住していたサカ人（スキタイ系遊牧民）を征服し、さらにそれまで北西インドに勢力を築いていたインド・スキタイ王国の最後の王アゼス2世らの支配領域を引き継ぐ形で、広大な領土を獲得しました。こうして、現在のアフガニスタンの一部、パキスタン、そしてインド北西部に及ぶ巨大な「インド・パルティア王国」を築き上げたとされています。ただし、アゼス2世らの具体的な出自や、ゴンドファルネスとの関係性の詳細は明らかになっていません。
歴史家ユスティヌスの記録には、この時期にカブール川上流域に存在したギリシア系の王国がパルティア人によって滅ぼされたとありますが、この「パルティア人」がゴンドファルネスを指すという説も存在します。彼の正確な在位年数は不明確ですが、およそ30年近くにわたって統治を続けたと考えられています。ゴンドファルネスの死後、王位は甥とされるアブダガセス1世に引き継がれましたが、その後は最後の王とされるパコレスや、名門アスヴァヴァルマ家のササといったパルティア人やサカ人の総督たちが各地で独立の動きを見せ、王国の支配領域は急速に縮小・分裂していきました。彼らが互いに争っていた様子は、『エリュトゥラー海案内記』などのわずかな史料からも伺うことができます。
統治と文化
ゴンドファルネスの具体的な統治政策については、ほとんど情報が残されていません。彼の勢力範囲の推定は、主に彼が発行したコインの出土状況に基づいています。また、アゼス2世時代に権力を持っていた地方の領主が、ゴンドファルネスの統治下でもその地位を維持していた事例が知られており、彼の支配体制は、土着の支配者たちに自身の覇権を認めさせることで成立していたと考えられています。このため、彼の死後、広大な領土が容易に分解へと向かったと見られています。
ゴンドファルネスは、当時のパルティア本国の支配者たちと同様に、ヘレニズム世界由来の称号を用いていたことが分かっています。
- - 救世主たる王（バシレウス・ソテロス）
- - 諸王の王（バシレウス・バシレオン）
- - 支配者（アウトクラトール）
といった称号が使用され、さらにサンスクリット語では「マハーラージャ」（大王）の称号も併用されました。発行されたコインの様式は、パルティア風のものとサカ風のものが並行して見られ、彼の支配領域においてサカ人の影響力が強かったことを示唆しています。
聖トマス伝承との関連
キリスト教の伝説の一つである「聖トマス伝」には、インドに伝道を行った使徒聖トマスと、彼を受け入れたインドの王グンダファルの物語が記されています。伝承によれば、使徒たちが分担して伝道地を決める際、インド行きを割り当てられた聖トマスは気が進まずためらっていました。折しも、インドの王グンダファルが宮殿建設のため大工を探しており、使者ハッバーンをシリアに送りました。主イエスは、聖トマスをハッバーンに奴隷として売り渡し、インドへ旅立たせたのです。インドに着いた聖トマスはグンダファル王から宮殿建設を命じられ、建設資金を与えられましたが、彼はその全てを貧しい人々に分け与えました。これは、地上の宮殿ではなく天国にこそ真の宮殿を建てるべきだと説いたためでしたが、王は激怒し聖トマスを投獄します。ところが、王の弟ガドが一時的に死んで天国へ行くと、そこで聖トマスの善行によって築かれた輝かしい宮殿を目にします。ガドは奇跡的に蘇生し、この出来事をグンダファル王に語りました。これに心を動かされたグンダファル王は、キリスト教信仰を受け入れたとされています。
この伝承に登場するグンダファル王が、史実のゴンドファルネスと同一人物であることはほぼ確実視されています。ただし、伝承中の王弟ガドについては、その実在を確認する史料はありません。ゴンドファルネスが発行したコインの中には、彼の名をグダ（Guda）やガダ（Gada）と短縮して記したものがあり、これが別人、特に弟の名前と誤認された結果、ガドという弟の存在が伝承に組み込まれたのではないかと推測されています。
ゴンドファルネス自身が実際にキリスト教に改宗したかどうかについては、歴史的な議論があります。彼の初期のコインには勝利の女神ニケなどが刻まれており、当初はヘレニズム文化の影響が強かったことが伺えます。しかし、後に「神に忠実なる者」といった、当時の支配者としてはあまり一般的ではない称号を用いたことが知られており、これが彼がキリスト教に改宗した可能性を示す有力な証拠の一つとして挙げられることがあります。
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