サイ (漢字学)

漢字の構成要素「サイ」についての解説

「サイ」とは、白川静によって提唱された漢字の構成要素であり、祝詞を収める箱の形を象徴しています。この概念は、漢字の起源や成り立ち、そして古代中国の宗教的社会との関係を深く探る重要な鍵となります。

背景と概念の提唱

漢字の字源解釈は、長年にわたり「説文解字」によって篆書の形を用いて体系化されてきました。この過程では、例えば「口」という漢字は、実際には顔の口を指していると考えられていました。しかし、白川静は、甲骨文字や金文といった古代の資料を研究する中で、これとは異なる視点を持ちました。

白川は、「口」は単なる口の形ではなく、「神に捧げる祝詞を収める箱」として理解されるべきだと主張しました。このように、彼は口部を持つ漢字の意味を統一的に解釈するための新たな視点「サイ」を導入したのです。これは、古代中国が深い宗教的背景を持っていたことと、漢字の成り立ちが密接に関連していることを示唆しています。

漢字と原初の形への理解

「説文解字」が用いる篆書は、甲骨文字や金文が提供する文字の原形を正確に反映しているわけではありません。そのため、漢字の解釈には不正確な点が存在することもあります。この点において、白川静は「サイ」を含む文字系列に対して新たな解釈を提案し、従来の誤解を訂正する必要性があると訴えました。たとえば、「阜」は従来、丘の形を示すと考えられていましたが、白川静はこれを神の梯子の形と見立てました。

「サイ」という音は「才」や「載」などの字と関係があり、祝詞が組み込まれているため、訓読した際には「ノリト」と読むことになります。

甲骨文字と金文における「口」

白川静によると、「サイ」の漢字で、「口」の意味が明確に示されている甲骨文字や金文の例は存在しません。また、「曰」という文字は、祝詞を「サイ」に収めている形であると解釈されます。これらの見解は、古代の文献から新たに発見される文脈に基づいており、漢字の理解を深化させる材料となっています。

漢字の字源解釈の具体例

以下に、「サイ」を含む漢字についての白川静の解釈と、従来の考え方の違いを示します。

名

• - 説文解字の説明: 夕暮れに暗く、姿が見えないため、口で名を告げることに由来する。
• - 白川静の解釈: 子供が誕生後、祖先から名前の使用許可を求める儀礼の際に、祝詞を収めた「サイ」が用いられることに基づいています。

告

• - 説文解字の説明: 文字上部が牛の角であり、牛が人に告げるときはその角で触れることから来ている。
• - 白川静の解釈: 上部が木の枝であり、祝詞を収めた「サイ」に添えて神に告げ祈る様子を表しています。

参考文献

• - 『字統』（平凡社）
• - 『常用字解』（平凡社）
• - 『漢字の世界』1・2（平凡社）
• - 『漢字百話』（中央公論社）
• - 小山鉄郎著『白川静さんに学ぶ漢字は楽しい』（共同通信社 2006年）
• - 小山鉄郎著『白川静さんに学ぶ漢字は怖い』（共同通信社 2007年）

外部リンク

• - 立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所

このように、白川静の「サイ」に関する提唱は、漢字の背景やその宗教的な意義を考える上で非常に重要な視点を提供しており、漢字の理解を深める一助となります。

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