金文

金文（きんぶん）とは

金文とは、古代中国において青銅器の表面に鋳込まれた、または刻まれた文字のことを指します。「金」は、この文脈では青銅を意味します。特に殷（いん）・周（しゅう）時代のものが有名で、年代的には甲骨文字の後に位置します。考古学的な観点からは「青銅器銘文」と呼ばれることも多く、また「鐘鼎文（しょうていぶん）」という別名もあります。

殷は青銅器文化が非常に発達した時代であり、この時代に青銅器の表面に文字を鋳込む技術が用いられました。しかし、その具体的な方法は現代においても完全には解明されていません。

金文は、『史記』のような後世の文献とは異なり、同時代の資料として非常に貴重な存在です。そのため、この時代の社会や文化を研究する上で欠かせない資料となっています。金文の研究は、主に拓本（たくほん）や模写によって進められてきました。

なお、石などに刻まれた文章は石文（せきぶん）と呼ばれ、金文と合わせて金石文（きんせきぶん）と総称されます。また、これらの文字を研究する学問分野は金石学（きんせきがく）と呼ばれています。

金文の分類

金文は、その時代によって大きく以下の4つに分類されることが一般的です。

1. 殷金文（いんきんぶん）: 紀元前1300年頃～紀元前1070年頃
2. 西周金文（せいしゅうきんぶん）: 紀元前1070年頃～紀元前771年
3. 東周（とうしゅう）金文: 紀元前770年～紀元前222年（または列国金文とも）
4. 秦漢金文（しんかんきんぶん）: 紀元前221年～西暦219年

殷金文

青銅器の製造は、殷王朝の成立以前である二里頭期（にりとうき）から始まっていましたが、初期の青銅器には金文は鋳込まれていませんでした。金文が見られるようになるのは、殷の19代王である盤庚（ばんこう）が都を亳（はく）へ遷したとされる安陽期（あんようき）以降です。

初期の金文は、「図象記号」「図象文字」「族記号」と呼ばれるマークのようなものが中心で、これらは1200種ほど確認されています。これらのマークは、文字として読み下すことが難しく、その意味についても未解明な部分が多く残されています。中には、「図象記号」と「祖〇」「父〇」のように、祭祀の対象となる先祖の名前を組み合わせた銘文も見られます。

殷王朝末期の帝乙（ていおつ）・帝辛（ていしん）の時代になると、「成文銘（せいぶんめい）」と呼ばれる文章が現れるようになりますが、それでも長くても30～40字程度に留まり、内容も多岐にわたり、書風や書体にも統一性が見られません。

西周金文

殷を滅ぼした周王朝は、殷の文化や技術を継承しつつ、王と諸侯の関係を密接に結びつけようとしました。この試みは、青銅器に鋳込まれる金文に明確に表れています。殷の時代に見られた「諸侯の功績を王が認め、褒美を与える」という記録が、より具体的かつ長文化しました。

初期・前期の銘文としては、武王（ぶおう）の征服を記録した利簋（りき）の銘文や、殷周革命（いんしゅうかくめい）に言及した大盂鼎（だいようでい）の銘文が挙げられます。また、諸侯同士の領地争いを解決した証文を記した散氏盤（さんしばん）の銘文も存在します。

これらの金文は、王からの褒賞や領土の範囲を明文化するものであり、王の仲介があったことを物語っています。

殷の鋳造技術を引き継いだ当初の金文では、成文の書式や末尾の「図象記号」がそのまま流用され、工房の継続性が見て取れます。しかし、文字を整える意識は次第に洗練され、描画的だった点画も均一な太さの線で書かれるようになり、文字の大きさも画数に関係なく一定の面積に収まるようになります。例えば、「大克鼎（たいこくてい）」の銘のように、文字を一字ずつ枠線の中に収めるように製作される例もあります。

文章の長文化が進み、最長では「毛公鼎（もうこうてい）」の32行500字にまで達しました。これは、殷の金文が単なる祭祀道具であったのに対し、周の金文が土地争いの解決や政治方針の表明など、より具体的な目的を持つようになったことを示しています。

また、周王朝の弱体化に伴い、青銅器鋳造技術者が周王朝の工房を離れ、諸侯に仕えるようになる前兆とも言えるでしょう。

東周（または列国）金文

周王朝が東遷し、春秋戦国時代に入ると、各地で群雄割拠の時代となります。この時代には、儒教や道教など多様な倫理観が生まれ、鉄器の実用化に代表される工業技術の発展が見られました。

戦乱の時代となったため、銅剣や銅鉾など武器が大量に製造される一方、祭祀用の青銅器も引き続き鋳造されました。また、鐘などの楽器が著しく発達しました。

金文の内容も変化し、配下の将軍たちの戦功を記録するものが多くなりました。また、国ごとに字義や字形が多様に変化しました。さらに、鉄器の開発によって、従来は不可能だった銘文の掘り込みが可能となり、器の内側に鋳込まれていた金文が、外側に刻まれるようになりました。

この技法の変化により、楚（そ）の金文のように筆記体に近い銘文や、陳（ちん）や中山（ちゅうざん）で流行した「虫鳥体（ちゅうちょうたい）」と呼ばれる装飾性の高い銘文が生まれました。また、鋳込みよりも簡単に銘文を刻めるようになったことで、鐘に音階を刻む例も現れました。

秦漢金文

始皇帝（しこうてい）による統一によって、列国が割拠していた時代は終わりを迎え、統一規格化が進められました。始皇帝は焚書坑儒（ふんしょこうじゅ）を通じて文字や言語の統一を図り、各地の多様な文字文化を廃止しました。統一された文字を広めるため、自らの武威を示すために泰山（たいざん）をはじめとする各地に刻石碑を建立しました。

鉄器の質的な向上によって、石碑の建立が可能になったことで、秦（しん）王朝以降の重要な文字資料は、青銅器から石碑へと移行しました。

秦および漢（かん）王朝では、青銅器はより身近なものに用いられるようになります。始皇帝は度量衡の統一を図るため、統一規格となる分銅や升を大量に鋳造させました。分銅は「権（けん）」、升は「量（りょう）」と呼ばれ、これらに鋳込まれた銘を「権量銘（けんりょうめい）」と呼びます。

始皇帝が着手した貨幣統一の流れは漢王朝も引き継ぎ、始皇帝が鋳造を命じた「半両銭（はんりょうせん）」の鋳造は継続されました。武帝（ぶてい）による「五銖銭（ごしゅせん）」の鋳造と私鋳銭（しちゅうせん）の排除によって、秦漢の貨幣制度が確立し、それに鋳込まれた銘文が漢代金文の代表的な例となりました。また、実用的な灯器や香炉、洗（金だらい）などの銘文や、銅鏡の銘文も漢代金文の重要な部分を占めています。

金文銘鋳造技法の仮説

殷周時代の金文は青銅器の内側に鋳込まれていますが、どのようにして鋳型に銘を刻んだのかは、いまだに明確には解明されていません。

青銅器の鋳造法自体は、工房の発掘によって多数の鋳型が発見されたことから、以下のプロセスであることが判明しています。

1. 粘土で原寸大の模型を作る。
2. 模型に粘土を被せて切り分け、これを外枠とする。
3. 模型を削り、内型（内范（ないはん）、中子（なかご））とする。
4. 内型（内范）に銘を入れる。
5. 范を組み立て、外型と内型の隙間に銅の破片をいくつか挟ませる。
6. 溶かした銅を流し込む。
7. 冷えたら范を割り、青銅器を取り出す。

このうち、内型に銘を入れる工程については、複数の仮説が提唱されています。

泥状に溶いた粘土を塗り重ねる方法

これは清の時代の金石学者、阮元（げんげん）が提唱した仮説で、泥状に溶いた粘土を塗り重ね、時間と手間をかけて盛り上げるというものです。最近の実験で小型の銘を再現することには成功しましたが、議論の多い説です。

薄い粘土を貼り付けて削り取る方法

薄い粘土を内型に貼り付け、余分な部分を削り取るという説もありますが、実際の青銅器には削り取りの際にできる刀傷が見られないため、この説を否定する意見があります。

別途作成した型を埋め込む方法

粘土板で銘文用の型を作り、それを内型を削って埋め込むという説もありますが、毛公鼎のように大きな曲面を持つ内面に全面に施された銘文の製作は困難であると考えられています。

革に刻印して転写する方法

20世紀末に提唱された仮説では、なめし革に銘を刻み、柔らかい粘土を塗った内型に転写する方法が提唱され、実験の結果、銘を再現することに成功しています。ただし、物的証拠がないため、この説も仮説の域を出ていません。

また、木片や革などのテンプレートを流用することで、器と蓋の銘を同時に作成できますが、実際には器と蓋の銘が完全に一致する青銅器は発見されていません。そのため、器と蓋の銘は別々に作られたとする意見も存在します。

金文の字例

(字例については、ここでは詳細を割愛します。)

脚注

(脚注については、ここでは詳細を割愛します。)

参考文献

(参考文献については、ここでは詳細を割愛します。)

外部リンク

金文 - 東京大学総合研究博物館
金文 - 安房守のホームページ

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