甲骨文字

甲骨文字：古代中国の謎を解き明かす文字

甲骨文字は、古代中国、特に殷（商）王朝後期（紀元前13世紀頃）の遺跡から発見された文字です。亀の甲羅や牛の肩甲骨といった甲骨に刻まれたことからこの名が付けられました。漢字の起源を探る上で極めて重要な資料であり、2017年にはユネスコ「世界の記憶」にも登録されています。

甲骨文字の発見と研究の歴史

甲骨文字の発見は、1899年、王懿栄という金石学者が骨董商から購入した薬用とされた「竜骨」に刻まれた文字がきっかけでした。この発見は、漢字研究に新たな地平を切り開く大きな出来事となりました。その後、多くの学者が甲骨文字の研究に携わり、発掘調査や分類、断代研究（特定の文字がどの時代に書かれたものかを特定する研究）が進められました。

初期の研究では、羅振玉、王国維、郭沫若、董作賓といった著名な学者たちが活躍し、甲骨文字の解読や体系化に貢献しました。彼らは、膨大な数の甲骨文字を収集・分析し、その意味や文法、歴史的背景を解明しようと努力しました。

20世紀半ば以降は、中国科学院考古研究所などによる本格的な発掘調査が行われ、大量の甲骨文字が発見されました。これにより、殷王朝の政治、経済、社会、文化など、様々な側面が明らかになりつつあります。断代研究においても、董作賓による5期区分や、陳夢家、李学勤らによる更なる細分化が進み、より精密な時代特定が可能となっています。

甲骨文字の特徴と分類

甲骨文字は、漢字の祖型といえるほど古い文字です。絵のような象形文字が多く、徐々に抽象化、簡略化されていく漢字の進化過程を垣間見ることができます。材質の特性や、公式記録としての用途から、同時代の金文に比べて簡略化されている点も特徴です。

刻字の方法についても、筆書きによる下書きがあったか否か、縦画と横画をどのように刻んだかなど、研究者間で様々な議論がなされています。

甲骨文字の内容は、主に占卜（亀卜）の記録である「卜辞」が中心です。卜辞は、殷王朝の政治、軍事、祭祀、農業、そして自然現象など、様々な事柄について占った結果が記されています。卜辞の構成は、占卜の日付、貞人（占いを担当した人）の名前、占いの対象、結果、そして実際の結果などが記されています。卜辞以外にも、甲骨の購入記録や、その他の事件の記録などが残されています。

断代研究：甲骨文字の時代特定

甲骨文字の断代研究は、文字の形態、文法、語彙、人名、地名、そして歴史的事実などを総合的に分析することで、特定の甲骨文字がどの時代のものかを特定する高度な研究です。

初期の研究では、王国維が殷王の系譜を参考に断代を試みましたが、資料の不足から限界がありました。その後、董作賓は10種類の基準（王朝の系譜、王への呼称、占卜担当者、出土地点、周辺諸国の状況、人名、事柄、文法、字形、書体）を提示し、体系的な断代研究を確立しました。

董作賓の5期区分は、その後陳夢家らによってさらに細分化され、「村北系」と「村南系」といった占卜組織の分類も提唱されました。現在では、筆跡鑑定などの手法も用いられ、より精緻な断代研究が進められています。

甲骨文字研究の意義

甲骨文字研究は、単なる古代文字の解読にとどまりません。殷王朝の歴史、社会、文化、そして漢字の進化を理解する上で、不可欠な役割を果たしています。甲骨文字は、古代中国社会の多様な側面を映し出す貴重な記録であり、今後もその研究は継続され、新たな発見が期待されています。

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