サイクロスポラ症

サイクロスポラ症は、主にCyclospora cayetanensisという原虫によって引き起こされる感染症です。この原虫は、アピコンプレックス門に属する単細胞生物であり、ヒトの糞便やそれに汚染された飲食物を介して感染します。

感染経路と病原体

感染源となるのは、成熟したオーシストと呼ばれる状態のサイクロスポラです。汚染された食物や水を摂取することで、オーシストが小腸に到達し、脱嚢して粘膜固有層の細胞内で無性生殖を繰り返します。その後、有性生殖を経て未成熟なオーシストが糞便中に排出されます。この未成熟なオーシストが感染力を得るためには、外部環境で約10日間程度の期間が必要です。この期間は気温によって変動します。

症状

サイクロスポラ症の主な症状は、長引く水様性下痢です。その他の症状としては、鼓腸、発熱、腹痛、筋肉痛などが挙げられます。これらの症状は、患者の生活の質を著しく低下させる可能性があります。

診断

サイクロスポラ症の診断は、患者の便中にオーシストを検出することによって行われます。しかし、オーシストの検出は必ずしも容易ではありません。そのため、PCR検査や抗酸染色などの方法が用いられることがあります。これらの検査によって、より正確な診断が可能となります。

治療

サイクロスポラ症の治療には、ST合剤と呼ばれる薬剤が用いられます。この薬剤は、サイクロスポラの増殖を抑制し、症状の改善を促します。

予防

サイクロスポラ症を予防するためには、以下の対策が有効です。

食材をよく洗浄する
食材を十分に加熱する
生水の飲用を避ける

特に、生で摂取する果物や野菜は、念入りに洗浄することが重要です。また、塩素処理ではサイクロスポラを不活化できないため、生水の飲用は避けるべきです。

アウトブレイク事例

サイクロスポラ症は、当初、熱帯・亜熱帯地域に限定された感染症と考えられていましたが、近年、北アメリカ大陸での発症例が増加しています。アメリカ合衆国やカナダでは、汚染された果実や野菜の輸入消費によるアウトブレイクが度々発生しており、公衆衛生上の課題となっています。

過去には、袋売りのサラダやコリアンダー、マクドナルドのサラダなどが原因で大規模なアウトブレイクが発生した事例があります。これらの事例から、食品の安全性に対する意識を高めることの重要性が認識されています。

歴史

サイクロスポラ症のヒトへの感染が確認されたのは、1977年以降と比較的最近のことです。1979年にイギリス人寄生虫学者のAshfordが、パプアニューギニアで採取された便検体中にイソスポラ様のコクシジウムを発見し、報告したのが最初の記録です。その後、1989年にはペルーで慢性的な下痢症状を示す患者からクリプトスポリジウム様の生物が報告されました。この生物は、当初シアノバクテリアに類似すると考えられていましたが、1992年にOrtegaらによってサイクロスポラと同定され、Cyclospora cayetanensisと命名されました。ただし、この学名が正式に認められたのは1994年になってからです。

参考文献

Cyclospora cayetanensis (カンザス州立大学）：https://www.vet.k-state.edu/parasitology/cyclospora/

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