アングル人

アングル人：イングランドの礎を築いたゲルマン民族

アングル人は、古代にユトランド半島南部、現在のドイツ・シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン州付近のアンゲルン半島に住んでいた西方系ゲルマン民族です。彼らは5世紀頃、デーン人の侵攻を逃れるため、サクソン人、ジュート人と共にブリテン島へ渡りました。ブリテン島では先住民のブリトン人を圧倒し、幾つかの王国を建設、アングロサクソン人の礎を築きました。

ブリテン島におけるアングル人の興亡

アングル人の存在は、古代ローマ時代から知られていました。ブリテン島に渡来したアングル人は、ノーサンブリア王国やマーシア王国といった勢力を築き、初期の七王国時代においては大きな影響力を持っていました。これらの王国は、アングル人を祖とする王族によって統治されていました。しかし、その後、サクソン人が建設したウェセックス王国によって七王国は統一され、アングル人は徐々に勢力を弱めていきました。

その後、北欧からデーン人の侵攻が始まり、アングル人は守勢に立たされました。この危機の中で、アングル人は近縁のサクソン人と同化し、アングロサクソン人と呼ばれる新たな集団を形成していきました。アングロサクソン人は、デーン人の侵略に対抗し、ブリテン島の歴史に大きな足跡を残しました。

アングル人の名称の由来

アングル人の名称は、彼らの故地であるアンゲルン半島に由来すると考えられています。アンゲルンという地名は、ゲルマン諸語で「狭い水辺」を意味する語根「eng-」または「angh-」、もしくは印欧語で「曲がった」を意味する語根「ang-」に由来するという説があります。後者の説では、アンゲルン半島が釣り針のような形をしていることからこの名がついたとされています。興味深いことに、古[[英語]]では「angle」に「釣り針」という意味があったとされ、この説を裏付けるものとなっています。

アングル人に関する最古の記録は、タキトゥスの『ゲルマニア』に見られます。同書ではアングル人を「Anglii」と表記していますが、7世紀のローマ教皇グレゴリウス1世は「Angli」という短縮形を推奨し、これが以降の標準的な表記となりました。

イングランドとアングル人の繋がり

アングル人の名は、[イングランド]とイングリッシュ(English)という名称の語源となっています。アングル人がブリテン島に定着するにつれて、彼らの居住地はラテン語で「Anglia」（アングリア）と呼ばれるようになり、これは後に古[[英語]]で様々な形で翻訳・転用されました。例えば、アルフレッド大王は「Angelcynn」、ベーダ・ヴェネラビリスは「Angelfolc」や「Engla Londe」といった語を用いてイングランドまたはイングランド人を表現しました。様々な派生形を経て、現在の「England」と「English」という綴りが定着したのは16世紀以降のことです。フランス語では現在でも「アングル人の土地」を意味する「Angleterre」がイングランドを指す言葉として使われています。

アングル人の歴史的影響は、現代社会にも色濃く残っています。イングランド国教会の英語名称である「アングリカン・チャーチ」や「アングリカニズム」は、アングル人の信仰を反映しています。また、北アメリカ大陸を「アングロアメリカ」と呼ぶのは、イングランドからの移民が多く、歴史的・文化的な繋がりを長く持っていることに由来しています。アングル人は、イングランドの歴史と文化の形成に不可欠な存在であり、その歴史を知ることは、現代社会を理解する上で重要な意味を持ちます。

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