サソリモドキ

サソリモドキ（蠍擬）とは

サソリモドキ（蠍擬、サソリモドキ類）は、鋏角亜門クモガタ綱サソリモドキ目に属する節足動物の総称です。 頑丈な触肢と鞭のような尾を持ち、捕食者として活動します。 特筆すべきは、強烈な臭いを放つ酸性の噴出物で身を守る自衛手段です。 名前に「サソリ」と付きますが、実際にはヤイトムシ、ウデムシ、クモに近縁であり、サソリとは異なる系統に属します。

呼称の由来

目名である「Thelyphonida」は、ギリシャ語で「女殺し」を意味します。 また、異名である「Uropygi」は、ギリシャ語の「οὐροπύγιον」（ouropugion）に由来し、「尾」と「尻」を意味します。 これは、サソリモドキの尾節が鞭のような形状をしていることに由来します。

総称としての「サソリモドキ」は、かつては日本産の種（サソリモドキ Typopeltis stimpsonii）の和名として用いられていましたが、後に2種（アマミサソリモドキ、タイワンサソリモドキ）に分けられました。 その他、鞭蠍（むちさそり）、尻尾虫（しりおむし）、酢虫（すむし）などの別名や、英名である「whip scorpion」や「vinegaroon」に由来するムチサソリ、ビネガロンという呼称も存在します。

形態の特徴

全身は黒褐色の外骨格で覆われています。 サソリに似た外見を持ちますが、ヤイトムシやウデムシと共通する特徴も多く見られます。 体は偏平で縦長く、前体（頭胸部）と後体（腹部）の間が少し細くなっています。 後体の後端には鞭状の尾節があり、これが「whip scorpion」（ムチサソリ）という英名の由来となっています。 全長は25–85mm程度で、陸生節足動物としては中大型に分類されます。 特に Mastigoproctus 属は大型の種類が多いです。

性的二形としては、生殖口蓋と生殖肢の形状に差異が見られるほか、雄の触肢が雌よりも発達している、雌の第1脚に特殊な突起があるなどの例があります。

前体

前体（頭胸部）は1枚の背甲に覆われており、前方には1対の中眼と、両側には集約した数対の側眼があります。 側眼は一見3対に見えますが、実際には5対存在し、そのうち2対は非常に小さく目立ちません。 他のクモガタ類と同様に、鋏角1対、触肢1対、歩脚4対の計6対の付属肢を持ちます。 腹側には分節した三角形の腹板があります。

鋏角は小さく、折りたたみナイフのような形状をしています。 触肢は太く発達しており、基節は左右癒合しています。 先端の脛節と跗節は鋏状になり、直前の膝節も発達した突起を持ちます。 転節の背側には歯車のような突起があり、触肢全体が捕脚として機能します。 この触肢は獲物の捕獲や巣穴を掘る際に用いられ、普段は頭胸部の前に曲げた状態で保持されます。 第1脚は細長く、歩行には使用せず、昆虫の触角のような感覚器官として機能します。 他の3対の脚は歩行用で、後方ほど長くなっており、先端の跗節は3つの跗小節に分かれています。

後体

後体（腹部）は12節からなり、多くの節には背板と腹板にそれぞれ1対の凹み（内突起）があります。 第1節はやや幅狭く、その腹板は縦長の三角形で第4脚の基部の間に挟まっています。 第2-3節の腹面に見える2枚の外骨格は腹板ではなく、付属肢由来の蓋板（operculum）であり、その奥に2対の書肺があります。 最初の蓋板は生殖口蓋（genital operculum）といい、その奥に生殖口と生殖肢があります。 生殖肢と第3腹板の形状は雌雄で異なります。

後端の3節は細短い円柱状の尾部（pygidium）となり、先端には体長とほぼ同長の鞭状体（flagellum）に特化した尾節があります。 尾節は感覚器官として用いられます。 毒腺はありませんが、1対の分泌腺に繋がった付け根から酢酸とカプリル酸の混合物を噴射することができます。 英名「vinegaroon」は、この自衛用の液体が酢（vinegar）のような強烈な臭いを持つことに由来します。

生態

夜行性の肉食動物であり、昆虫やヤスデなどの節足動物を捕食します。 ミミズやナメクジなども餌とし、Mastigoproctus 属の大型種は小型の脊椎動物を狩ることもあります。 捕獲した獲物は、触肢の歯車状の突起と鋏角で抑え込み、口から消化液を分泌して体外で一部を消化しながら摂食します。

倒木や岩の下など、湿った暗い場所を好みます。 通常は一つの石の下に単独で生息しています。 刺激を受けると素早く逃げるか、触肢を開いて後体を上げて威嚇姿勢を取ります。 さらに刺激を受けると、肛門腺から刺激性のある液体を噴射します。

繁殖においては、多くのクモガタ類と同様に真の交尾は行わず、雄が雌に精包（精莢）を受け渡すことで交接が行われます。 繁殖行動はいくつかの種類でのみ確認されており、雄が触肢で雌の第1脚を掴み、雌が雄の後体を抱き、雄が精包を雌の生殖孔に押し込むという過程が知られています。 アマミサソリモドキでは、雄同士が闘争を行うことが確認されています。

産卵数は35個以下であることが多く、卵は粘膜で保護されます。 雌は孵化するまで絶食して卵を守り、孵化した幼体は母体の背中に吸着して過ごします。 最初の脱皮を終えると成体に近い姿になり、幼体が母体を離れた後に雌は寿命を迎えます。 幼体の成長は遅く、3年かけて3回の脱皮を経て成体となり、成体となった後も4年程度生きると考えられています。

分布

ヨーロッパとオーストラリア大陸を除く世界各地の熱帯・亜熱帯に分布しています。 日本では、伊豆諸島の八丈島（人為分布）、九州南部から奄美にかけてアマミサソリモドキ、沖縄本島から八重山諸島にタイワンサソリモドキが分布しています。 どちらも外見がよく似ており、以前は同一種と考えられていました。 天草下島南端に生息するアマミサソリモドキは、北限の個体群として熊本県の天然記念物に指定されています。 本州や四国でも発見例があり、ソテツなどの植樹に伴って移入された個体群が原因と考えられていますが、高知県の個体群については海流分散の可能性も指摘されています。

人間との関わり

通常は家屋内に侵入することはなく、日常生活で見かけることはありません。 しかし、刺激を受けた際に肛門腺から噴出する液体には強い刺激性があり、皮膚に触れたり目に入ると火傷のような皮膚炎や角膜炎などを起こす恐れがあるため、有害な生物として認識されています。 ただし、積極的に人間を襲うことはありません。

クモやサソリのような民俗文化的な事物として注目されることはありませんが、外国産の大型クモ類や甲虫類と同様に観賞用として飼育されることがあります。

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