サッチャリズム

サッチャリズムとは

サッチャリズム（英: Thatcherism）は、1980年代にイギリスでマーガレット・サッチャー首相のもとに推進された経済政策を指します。この政策は、国の経済構造を大きく変革し、社会保障制度の見直しや民営化を通じて市場原理を重視する方向にシフトしました。

背景

第二次世界大戦後のイギリスでは、ジョン・メイナード・ケインズの理論をもとにした高福祉政策が長らく続けられてきました。「ゆりかごから墓場まで」と表現されるこれらの政策は、社会的安全網を強化するとともに、経済の安定化を狙ったものでした。しかし、特に1970年代には経済成長の停滞や「英国病」と呼ばれる産業の衰退が問題視され、既存の政策の見直しが求められました。

サッチャリズムの政策

マーガレット・サッチャーが1979年に保守党政権を樹立した際、彼女は高福祉社会保障政策の継続をしつつも、大規模な民営化と規制緩和を進めることを選択しました。電気、ガス、水道、通信インフラなどの公益事業は次々と民営化され、政府の役割を容易に削減する方向に転換されたのです。サッチャーはフリードリヒ・ハイエクの新自由主義的な考えに影響を受けており、個人の自由市場への参入を強く推し進めました。

サッチャリズムによる重要な施策のひとつが、「ビッグバン」政策でした。これはロンドン金融市場における規制緩和を中心としたもので、外国資本の流入を促進しましたが、結果的には国内企業が外国資本の競争にさらされ、経済の競争環境が変化しました。

さらに、サッチャリズムは税制にも影響を与えました。所得税を減税する一方で、消費税の増税を通じて国民に対する「勤勉」と「倹約」が奨励されました。同時に、インフレ抑制のために金利が上昇し、この政策が失業率の上昇を助長してしまったことも、後の批判の対象となります。

経済への影響

サッチャリズムの政策には明らかに成果と同時に問題点もありました。公共投資が抑制され、緊縮型の財政政策が採られた結果、インフレ抑制に一定の効果がありましたが、他方ではポンド高が輸出産業に打撃を与えました。この影響を受けて、長期にわたる不況と高い失業率が続き、特に1983年には失業率が11%を超える事態となったのです。

また、所得格差も拡大しました。サッチャー政権が終焉を迎える頃には、平均所得の60%未満で生活する層の割合が約22%に増加し、ジニ係数も上昇しました。政策の実施に伴い、国民の間には不満が広がり、支持率の低下を招く結果となったのです。

サッチャリズムの終焉とその後

サッチャリズムは1980年代後半には批判の的となり、経済の成長を伴わない状態で社会政策の維持を試みた結果、サッチャー首相は最終的に辞職することとなりました。その後、1992年のポンド危機を経て、イギリスは労働党による政権交代という新たな局面を迎えることになります。

サッチャリズムを題材にした文化的影響

サッチャリズムは、その影響の大きさから、映画や文献などのさまざまな作品で取り上げられています。『ブラス！』や『リトル・ダンサー』、『フル・モンティ』などの作品は、当時の社会の様子や文化を反映していると言えます。この社会的・経済的背景をもとにした作品は、今日でも多くの人々に影響を与えています。

もう一度検索