サナマヒ教
サナマヒ教は、インド北東部に位置するマニプル州を中心に居住するメイテイ族によって信仰されている伝統的な多神教です。その名称は、メイテイの伝統信仰における多くの神々（ライ）のうちの一柱であるライニントー・サナマヒに由来しています。2011年の国勢調査によれば、マニプル州の全宗教人口のおよそ6パーセントがサナマヒ教の信者とされています。
マニプル王国の歴史を記した年代記『チェイターロル・クンババ』は、ヒンドゥー教がこの地域に広がる以前の信仰についても触れています。例えば、タンチン山やマーチン山、コーブル山、ノンマイチン山といった周囲の山々は、王国の四方を守る神として古くから崇拝されていました。17世紀のカーゲンバ王の時代には、これらの神々への供物として動物が生贄とされる儀式が行われていた記録が残っています。また、14世紀のムンギャンバ王の治世には、樹木に対する祭祀が行われていたことも伝えられています。
王国において初めてヒンドゥー教を受け入れたのは、1704年のチャライロンバ王だとされています。彼はピタンバル・シンというヒンドゥー名を用いたとも言われています。彼の息子であるパムヘイバ王（ガリブ・ニワズとしても知られます）は、治世中にヴィシュヌ教を中心とした大規模な宗教改革を断行しました。彼はカースト制度を導入し、多くの臣民をヒンドゥー教へと改宗させました。メイテイの公的な祭祀もヒンドゥー様式へと変更され、1723年には伝統宗教の寺院が破壊されました。さらに、1726年にはライニントー・パントイビ・ライワハイバ（サナマヒの別名とされる）の神像7体が破壊され、鋳つぶされて硬貨に変えられたという記録もあります。
しかし、パムヘイバ王でさえ、メイテイの伝統宗教を完全に根絶することは困難であったようです。1729年には、ライワハイバを神として認め、その神殿と神像を再建しています。『サナマヒ・ライカン』は、少なくともパムヘイバ王の時代以降に編纂された宗教書ですが、この書物には、王の宗教的な師であったシャンタ・ダース・ゴーサイが、サナマヒはヴィシュヌ神のアヴァターラ（化身）であると説いたことが記されています。年代記において、破壊された神像の中でサナマヒのものだけが復元されたという記述から、研究者の中には、おそらくこれは史実であり、多くのウマン・ライ（精霊的な神々）の中でサナマヒが特に重視されるようになったのはこの時代以降であろうと論じる者もいます。また、年代記は、王妃がヒンドゥー的な食事制限に従わず、伝統的な醸造酒であるユと肉を飲食し、サナマヒにユを捧げたという出来事を記録しています。この出来事が記された1746年は、サナマヒという神号が年代記に初めて登場する年でもあります。
パムヘイバ王は、特に1749年の退位までの数年間、伝統宗教に対する態度を軟化させていましたが、おそらく急進的な宗教改革への強い反発が原因で、彼は次の王であるチッ・サイ王によって追放され、1751年に暗殺されたとされています。その後もマニプルにはヒンドゥー教が浸透していきましたが、バギャーチャンドラ王の治世には、ガウディーヤ派ヴィシュヌ教を国教としつつも、伝統宗教を完全に排除しない政策が取られました。こうした状況下で、メイテイの伝統的な神々はヒンドゥー教の神々と習合していきます。バギャーチャンドラ王の時代には、ノンポク・ニントーがシヴァ神と、ライレンビがカーマーキャー女神と同一視されるようになりました。1891年にマニプル王国がイギリスの支配下に入った頃には、マニプルの宗教は、伝統宗教とヴィシュヌ教が融合した形になっていました。カースト制度は導入されたものの、すべてのメイテイ人がクシャトリヤ（武士階級）と定められたこともあり、ヒンドゥー教の教義による拘束力は比較的弱いものでした。
サナマヒ運動は、1930年代に始まったメイテイの伝統宗教の復興および純化を目指す動きです。この運動により、ヒンドゥー教の影響から独立した宗教として再構築されたものが、狭義にはサナマヒ教と呼ばれます。この運動は、チュラチャンド・シン王の治世下で展開されました。彼はマニプルを叙事詩『マハーバーラタ』に登場するマニプラと同一視し、メイテイの伝統宗教をサンスクリット化しようと試みました。さらに、自らをヴィシュヌ神の化身と称し、宗教儀式に課税したり、特定の人物を「マンバ」（穢れた者）と認定して社会から追放したりしました。マンバの認定を取り消すためには、バラモンに多額の金銭を支払って行う「センバ」（清めの儀式）が必要であり、これらの制度はしばしば王やその周辺の人物の富を蓄える手段となりました。このようなヒンドゥー教に基づく圧政は、メイテイの人々の強い反発を招きました。
アッサム州カチャル県出身のメイテイ人で、マニプル州の公務員であったナオレム・プッロは、1930年頃に郷里で「アポクパ・マルプ」という組織を設立しました。この組織は、メイテイの古来の信仰を復活させることを目的としていました。プッロは強固な反バラモン主義を掲げ、王やヒンドゥー教の指導者たちと対立しました。当時、マニプリ語の筆記には主にベンガル文字が使われていましたが、彼はそれ以前に使われていた独自の書記体系であるメイテイ文字を復活させるために、ナオリヤ文字を考案しました。プッロは1941年に亡くなりましたが、1945年にはアポクパ・マルプのインパール支部が設立されました。インパール支部の設立総会では、「メイテイ文化の復興」「古代文字の復活」「メイテイ文学の研究」「礼拝におけるマニプリ語のみの使用」などが活動方針として決議されました。
メイテイ文字に関しては、1958年にメイテイ文学の研究者たちが会合を開き、古代メイテイ文字は基本的に18文字から構成されるという結論に至りました。1969年にも同様の会議が開かれましたが、文字数を18文字とするか、35文字とするかで議論が分かれました。1970年代から1980年代にかけて、サナマヒ運動はより活動的になり、ヒンドゥー教化されていたサナマヒ教の祠を「純化」する動きが見られました。また、伝統宗教をサンスクリット化した書籍やパンフレット、さらにはパムヘイバ王やシャンタ・ダース・ゴーサイの肖像画といった、ヒンドゥー教の影響を示すものが焚書されました。1974年には「ノンカン・パレイ・ハンバ」と呼ばれる大規模なサナマヒ教への改宗式典が開催され、マニプル王家の当主であるオケントラジット・シンもこの運動を支持しました。現代のメイテイ文字は1979年に27文字で正式に制定され、1980年にはマニプル州政府から公式な公告が行われました。
2011年に実施された国勢調査によると、サナマヒ教の信者数は222,422人でした。そのうち大多数にあたる222,315人がマニプル州に居住しています。この調査では、マニプル州の宗教人口の約6%をサナマヒ教信者が占めていると報告されています。
サナマヒ教では、「ライ」（マニプリ語で神を意味します）と呼ばれる多くの神々が信仰されています。現在のサナマヒ教において特に重要視されているのは、宇宙を創造し、天空を司る最高神であるシダバ・マプ、その妻であり大地を司るレイマレル・シダビ、そしてシダバ・マプの子であるパカンバとサナマヒです。シダバ・マプ、パカンバ、サナマヒは三兄弟であると説明される場合もあります。
歴史
伝統信仰とヒンドゥー教との習合
マニプル王国の歴史を記した年代記『チェイターロル・クンババ』は、ヒンドゥー教がこの地域に広がる以前の信仰についても触れています。例えば、タンチン山やマーチン山、コーブル山、ノンマイチン山といった周囲の山々は、王国の四方を守る神として古くから崇拝されていました。17世紀のカーゲンバ王の時代には、これらの神々への供物として動物が生贄とされる儀式が行われていた記録が残っています。また、14世紀のムンギャンバ王の治世には、樹木に対する祭祀が行われていたことも伝えられています。
王国において初めてヒンドゥー教を受け入れたのは、1704年のチャライロンバ王だとされています。彼はピタンバル・シンというヒンドゥー名を用いたとも言われています。彼の息子であるパムヘイバ王（ガリブ・ニワズとしても知られます）は、治世中にヴィシュヌ教を中心とした大規模な宗教改革を断行しました。彼はカースト制度を導入し、多くの臣民をヒンドゥー教へと改宗させました。メイテイの公的な祭祀もヒンドゥー様式へと変更され、1723年には伝統宗教の寺院が破壊されました。さらに、1726年にはライニントー・パントイビ・ライワハイバ（サナマヒの別名とされる）の神像7体が破壊され、鋳つぶされて硬貨に変えられたという記録もあります。
しかし、パムヘイバ王でさえ、メイテイの伝統宗教を完全に根絶することは困難であったようです。1729年には、ライワハイバを神として認め、その神殿と神像を再建しています。『サナマヒ・ライカン』は、少なくともパムヘイバ王の時代以降に編纂された宗教書ですが、この書物には、王の宗教的な師であったシャンタ・ダース・ゴーサイが、サナマヒはヴィシュヌ神のアヴァターラ（化身）であると説いたことが記されています。年代記において、破壊された神像の中でサナマヒのものだけが復元されたという記述から、研究者の中には、おそらくこれは史実であり、多くのウマン・ライ（精霊的な神々）の中でサナマヒが特に重視されるようになったのはこの時代以降であろうと論じる者もいます。また、年代記は、王妃がヒンドゥー的な食事制限に従わず、伝統的な醸造酒であるユと肉を飲食し、サナマヒにユを捧げたという出来事を記録しています。この出来事が記された1746年は、サナマヒという神号が年代記に初めて登場する年でもあります。
パムヘイバ王は、特に1749年の退位までの数年間、伝統宗教に対する態度を軟化させていましたが、おそらく急進的な宗教改革への強い反発が原因で、彼は次の王であるチッ・サイ王によって追放され、1751年に暗殺されたとされています。その後もマニプルにはヒンドゥー教が浸透していきましたが、バギャーチャンドラ王の治世には、ガウディーヤ派ヴィシュヌ教を国教としつつも、伝統宗教を完全に排除しない政策が取られました。こうした状況下で、メイテイの伝統的な神々はヒンドゥー教の神々と習合していきます。バギャーチャンドラ王の時代には、ノンポク・ニントーがシヴァ神と、ライレンビがカーマーキャー女神と同一視されるようになりました。1891年にマニプル王国がイギリスの支配下に入った頃には、マニプルの宗教は、伝統宗教とヴィシュヌ教が融合した形になっていました。カースト制度は導入されたものの、すべてのメイテイ人がクシャトリヤ（武士階級）と定められたこともあり、ヒンドゥー教の教義による拘束力は比較的弱いものでした。
サナマヒ運動
サナマヒ運動は、1930年代に始まったメイテイの伝統宗教の復興および純化を目指す動きです。この運動により、ヒンドゥー教の影響から独立した宗教として再構築されたものが、狭義にはサナマヒ教と呼ばれます。この運動は、チュラチャンド・シン王の治世下で展開されました。彼はマニプルを叙事詩『マハーバーラタ』に登場するマニプラと同一視し、メイテイの伝統宗教をサンスクリット化しようと試みました。さらに、自らをヴィシュヌ神の化身と称し、宗教儀式に課税したり、特定の人物を「マンバ」（穢れた者）と認定して社会から追放したりしました。マンバの認定を取り消すためには、バラモンに多額の金銭を支払って行う「センバ」（清めの儀式）が必要であり、これらの制度はしばしば王やその周辺の人物の富を蓄える手段となりました。このようなヒンドゥー教に基づく圧政は、メイテイの人々の強い反発を招きました。
アッサム州カチャル県出身のメイテイ人で、マニプル州の公務員であったナオレム・プッロは、1930年頃に郷里で「アポクパ・マルプ」という組織を設立しました。この組織は、メイテイの古来の信仰を復活させることを目的としていました。プッロは強固な反バラモン主義を掲げ、王やヒンドゥー教の指導者たちと対立しました。当時、マニプリ語の筆記には主にベンガル文字が使われていましたが、彼はそれ以前に使われていた独自の書記体系であるメイテイ文字を復活させるために、ナオリヤ文字を考案しました。プッロは1941年に亡くなりましたが、1945年にはアポクパ・マルプのインパール支部が設立されました。インパール支部の設立総会では、「メイテイ文化の復興」「古代文字の復活」「メイテイ文学の研究」「礼拝におけるマニプリ語のみの使用」などが活動方針として決議されました。
メイテイ文字に関しては、1958年にメイテイ文学の研究者たちが会合を開き、古代メイテイ文字は基本的に18文字から構成されるという結論に至りました。1969年にも同様の会議が開かれましたが、文字数を18文字とするか、35文字とするかで議論が分かれました。1970年代から1980年代にかけて、サナマヒ運動はより活動的になり、ヒンドゥー教化されていたサナマヒ教の祠を「純化」する動きが見られました。また、伝統宗教をサンスクリット化した書籍やパンフレット、さらにはパムヘイバ王やシャンタ・ダース・ゴーサイの肖像画といった、ヒンドゥー教の影響を示すものが焚書されました。1974年には「ノンカン・パレイ・ハンバ」と呼ばれる大規模なサナマヒ教への改宗式典が開催され、マニプル王家の当主であるオケントラジット・シンもこの運動を支持しました。現代のメイテイ文字は1979年に27文字で正式に制定され、1980年にはマニプル州政府から公式な公告が行われました。
信者数
2011年に実施された国勢調査によると、サナマヒ教の信者数は222,422人でした。そのうち大多数にあたる222,315人がマニプル州に居住しています。この調査では、マニプル州の宗教人口の約6%をサナマヒ教信者が占めていると報告されています。
信仰対象
サナマヒ教では、「ライ」（マニプリ語で神を意味します）と呼ばれる多くの神々が信仰されています。現在のサナマヒ教において特に重要視されているのは、宇宙を創造し、天空を司る最高神であるシダバ・マプ、その妻であり大地を司るレイマレル・シダビ、そしてシダバ・マプの子であるパカンバとサナマヒです。シダバ・マプ、パカンバ、サナマヒは三兄弟であると説明される場合もあります。
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