サミュエル・パーチャス

サミュエル・パーチャス（Samuel Purchas, 1577年頃 - 1626年）は、17世紀イングランドの聖職者であり、自身は外国への旅を経験することなく、他者が行った探検や旅行の記録を集大成して出版したことで知られる人物です。

生涯と経歴

パーチャスは、イングランドのエセックス州サクステッドで、ヨーマンの息子として生まれました。学問を修め、1600年にはケンブリッジ大学のセント・ジョンズ・カレッジを卒業しました。1604年には、当時の国王ジェームズ1世の任命により、エセックス州イーストウッドにある教会の副牧師となります。イーストウッドは、活気あふれる港町リー＝オン＝シーからほど近い場所に位置しており、海の男たちが集まる場所でした。興味深いことに、パーチャス自身は生涯、故郷サクステッドから200マイル（約320キロメートル）以上離れた場所へ旅することはなかったと述べています。彼の探検に関する知識は、自らの目で見たものではなく、イングランドに戻ってきた船乗りたちから直接聞き集めた話や、航海者・地理学者として高名なリチャード・ハクルト（Richard Hakluyt）が遺した膨大な未整理手稿に依拠するものでした。

1614年、パーチャスはカンタベリー大主教ジョージ・アボット付きのチャプレンとなり、さらにロンドンのルドゲートにある聖マーティン教会の牧師の地位を得ました。学業面では、1615年にオックスフォード大学から神学士の学位を授与されています。晩年については諸説あり、編纂事業にかかった費用で経済的に困窮し、債務者監獄で死去したとする説と、ロンドン主教キング博士らの支援を受けて困難を乗り越えたとする説が存在します。彼は1626年の秋にこの世を去りました。

主な著作

パーチャスは生涯にわたり、主に三つの重要な著作を刊行しています。

1. 『Purchas His Pilgrimage』（1613年）
彼の最初の主要な著作です。世界各地の旅行記の抄録を集め、イングランド国教会の視点から神が創造した多様性を概観することを意図して編まれました。出版されるやいなや好評を博し、パーチャスの死去までに4版を重ねる人気となりました。

2. 『Purchas his Pilgrim or Microcosmus』（1619年）
この著作では、人間の歴史、すなわちその誕生の驚異、堕落における虚栄、再生の必要性について論じられています。

3. 『Hakluytus Posthumus, or Purchas his Pilgrimes』（1625年）
全4巻からなるパーチャスの集大成であり、リチャード・ハクルトの有名な旅行記集成『Principal Navigations』の後継と見なされる作品です。内容は必ずしも体系的に整理されているわけではありませんが、概ね主題ごとに分けられています。
第1巻：古代の諸王、アフリカ沿岸、インド、中国、日本への航路。
第2巻：アフリカ、パレスチナ、ペルシャ、アラビア。
第3巻：北東航路・北西航路、タルタリー、ロシア、中国。
第4巻：アメリカ大陸と西インド諸島。
この作品には、ハクルトが遺した手稿も多く取り入れられています。

パーチャス自身は、初期の『Pilgrimage』と後期の『Pilgrimes』について、兄弟のように似ているが目的と主題が異なると述べています。『Pilgrimage』は借り物の情報を用いつつも彼自身の手法と言葉で書かれたものに対し、『Pilgrimes』は多数の著者の言葉をそのままに、自身が記述を補い整理したものであると説明しています。

評価と影響

編纂者としてのパーチャスは、時に無分別、不注意、あるいは不誠実であったとの批判もあります。しかし、彼が収集し保存した情報は、探検史における重要な疑問に答える唯一の手がかりを与えるほどに非常に価値が高いものです。ハクルトが探検計画を推進するために国民の関心を引くことを目的としたのに対し、パーチャスの編集上の判断や加筆コメントは、読者を啓蒙し、世界や異文化、道徳に関する知識を与えるという彼自身の根本的な目標から理解できます。

パーチャスの著作は、後世にも影響を与えました。特に『Hakluytus Posthumus, or Purchas his Pilgrimes』は、ロマン派の詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの有名な詩『クーブラ・カーン』の着想源の一つとなったことが知られています。ある評論によれば、コールリッジは病気療養中にこの本を読み、「ザナドゥではクーブラ・カーンが壮大な宮殿を造り…」という記述に触れた際に眠りに落ち、夢の中で詩の構想を得たとされています。

パーチャスの主要な集成である『Pilgrimes』は、1905年から1907年にかけて再刊されるまで、しばらくの間、その存在が忘れられがちでしたが、彼の編纂した記録は、今なお大航海時代の世界像を知る上で欠かせない貴重な資料となっています。

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