サムエル・コッキング

サムエル・コッキングの生涯

サムエル・コッキング（Samuel Cocking、1845年3月 - 1914年2月26日）は、幕末から明治にかけて横浜で活躍したイギリス人貿易商です。アイルランドで生まれ、幼少期にオーストラリアに移住、その後イギリス本国へ帰国しました。1868年に貿易商を志して日本へ渡航、1869年に来日しました。

1871年、横浜居留地に「コッキング商会」を設立し、各種雑貨や骨董品、植物などを取り扱う貿易業を始めました。1872年には宮田リキと結婚しています。1877年には、コレラの流行時に消毒薬として石炭酸を大量に輸入し、大きな利益を得ました。

1880年、コッキングは江の島に別荘を建設します。その後、1882年には別荘の隣接地に広大な土地を購入し、庭園の造営を開始しました。この庭園には、当時東洋最大級といわれた温室が建設されました。1884年には横浜に自邸と石鹸工場を開設、1885年には庭園が完成しました。温室の完成は1888年以降と推定されています。

コッキングは、貿易業だけでなく、日本の植物を海外に紹介する活動も行っていました。1889年にはイギリスの植物学雑誌に寄稿し、テッポウユリやハッカなどをヨーロッパに輸出しました。

1906年頃、取引先のイギリスの銀行が倒産した影響で事業を縮小、1914年に横浜の自宅で亡くなりました。

コッキング苑（旧コッキング庭園）

コッキングが造営した庭園は、西洋式の回遊式庭園でありながら、東洋的な要素も取り入れられた独特なものでした。南洋の植物なども多く持ち込まれ、クックアローカリアやタイミンチクなどの珍しい植物が現存しています。

庭園の最大の目玉は、当時東洋最大級と言われた温室でした。レンガ造りの基礎部分には、水槽やボイラー室、貯炭庫などが設けられ、上部は木造構造であったと推定されています。温室の面積は900平方メートルにも及びました。しかし、この温室は1923年の関東大震災で壊滅的な被害を受け、失われてしまいました。

1949年、藤沢市が江の島植物園を造営する際に、温室の下部構造は完全に破壊され、地中に埋没したと考えられていました。しかし、2002年の江の島植物園再整備工事の際に、温室の遺構が発見され、大部分が残っていることが判明しました。この遺構は、当時の土木遺構として非常に貴重な資料であることから、保存され、現在は「江の島コッキング植物園温室遺構」として一般公開されています。

余談

コッキングが来日した際、嵐に遭遇し、避難した相模湾で見た江の島の美しい景観に感銘を受け、それが後に江の島に別荘を構えるきっかけになったという説があります。

また、コッキングの名前は、一般的に「サミュエル」と発音されることが多いですが、当時の記録には「サムエル」と表記されていることが多いため、藤沢市などの公的機関では「サムエル」の表記が用いられています。

まとめ

サムエル・コッキングは、貿易商としての成功だけでなく、異国情緒あふれる庭園を造営した人物としても知られています。彼の庭園は、当時の西洋と東洋の文化が融合したユニークな空間であり、現在もその一部を見学することができます。

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