サラエヴォ市電

サラエヴォ市電：ボスニア・ヘルツェゴビナの歴史ある交通機関

サラエヴォ市電（ボスニア語: Sarajevski tramvaji / Сарајевски трамвај）は、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都であるサラエヴォ市内で運行されている路面電車です。この市電は、JKP GRAS サラエヴォによって管理されており、同社は市電だけでなく、路線バスやトロリーバスも運行しています。サラエヴォ市電の路線は、郊外のイリジャから市中心部に位置するスタリ・グラードのバシュチャルシヤまでの約10.7kmに及び、さらにサラエヴォ駅やバスターミナルを結ぶ0.4kmの支線があります。サラエヴォ市電は、ヨーロッパでも有数の歴史的な市電システムの一つです。

歴史

サラエヴォ市電は、1885年に開業され、ヨーロッパで初めて終日運行される路面電車として位置づけられています。この開業は、オーストリア＝ハンガリー帝国の影響を受けたもので、当初は馬車軌道で有名なウィーンを手本にして導入されました。開業当初は760mmの狭軌（ボスニアンゲージ）でしたが、1960年には標準軌（1,435mm）に改軌されました。20世紀の都市の発展とともに、市電は重要な交通手段として成長しましたが、1990年代のサラエヴォ包囲では、路線や車両に多大な損害を受け、運行は一時中断されました。しかし、残された車両により再び運行が開始されました。

運行

サラエヴォ市電の路線は、主要な東西のブールバールに沿って配置されており、ブレヴァール・メシェ・セリモヴィチャ（Bulevar Meše Selimovića）やヴィラ・チェンギッチ（Vila Čengić）、さらにゼマイ・オド・ボスネ（Zmaj od Bosne）を経由します。マリイン・ドヴォル（Marijin Dvor）からはループ状になり、ミリャツカ川沿いのオバラ・クリナ・バナ（Obala Kulina bana）を通り、折り返し地点のバシュチャルシヤに達します。そして、マルシャ・ティタ（Maršala Tita）通りを進む形で再度マリイン・ドヴォルに戻ります。現在、7つの系統が運行されていますが、全ての区間をカバーするのはそのうち3系統です。主要な系統は次の通りです：

• - 1系統：サラエヴォ駅（Željeznička stanica） - バシュチャルシヤ
• - 2系統：チェンジッチ・ヴィラ（Čengić Vila） - バシュチャルシヤ
• - 3系統：イリジャ - バシュチャルシヤ

車両

1960年の改軌以降、サラエヴォ市電に最初に導入されたのは、アメリカ・ワシントンD.C.の路面電車でも使われていたPCCカーでした。これらの一部は、利用者の増加に対応するために2車体連接車に改造されていますが、第二次世界大戦前に製造されたため、老朽化が進んでいました。そこで、1960年代後半からはタトラカー（タトラT3やタトラK2）への置き換えが進められました。タトラK2は1983年まで増備されましたが、その後は1990年製のタトラKT8D5が唯一の新しめの車両となっています。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争後、市電では多くの廃車となった車両が再導入される一方で、既存の車両の改修工事も実施されました。現在、新造車両の導入はあまり行われていませんが、2021年にはスイスのシュタッドラー・レール社との契約により、超低床電車タンゴNF3が25両導入されることが決定しました。この新しい車両は2024年3月からの運行を予定しており、老朽化したタトラK2を代替する役割を果たすことになります。

2023年現在、タンゴNF3を除くサラエヴォ市電の在籍車両は古いモデルが多く存在しています。

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