サン＝サヴァン・シュル・ガルタンプ修道院付属教会

サン＝サヴァン・シュル・ガルタンプ修道院付属教会：ロマネスク壁画の宝庫

フランス、ヴィエンヌ県サン＝サヴァンに位置するサン＝サヴァン・シュル・ガルタンプ修道院付属教会は、ユネスコの世界遺産に登録されているロマネスク様式の教会堂です。5世紀の殉教者伝説に起源を持つとされるこの教会は、その歴史と、精緻な壁画群によって世界中から注目を集めています。

建造から荒廃、そして再生

正確な創建時期は不明ですが、伝統的には5世紀、マケドニアからのキリスト教徒、サヴァンとシプリヤンの殉教を起源とします。彼らの遺骨が発見されたことをきっかけに、カール大帝の秘書官バディウスが修道院建設を決定。11世紀には、ポワトゥー伯領とアキテーヌ伯領を治めていたオモド女史の許可を得て、付属教会の建設が始まり、1040年から1090年にかけてオドンとジェルヴェ両修道院長のもとで完成しました。

その後、ルイ9世の弟アルフォンス・ド・ポワティエの支援を受け、百年戦争やユグノー戦争といった激動の時代を経験。ユグノー戦争期には、カトリックとプロテスタント双方の争いの舞台となり、教会は荒廃の一途を辿ります。17世紀初頭には、私利私欲に走る修道院長によって教会の一部が破壊されるなど、その歴史は苦難の連続でした。フランス革命期には憲兵の宿舎として利用されたり、革命祭の会場にされたりと、教会の機能は完全に失われてしまいました。

しかし、19世紀初頭、市長や県知事、史跡巡視官らの尽力によって修復事業が始まり、1849年にはひとまずの修復が完了。1983年にはユネスコの世界遺産に登録され、1990年には国際壁画センターが設立されるなど、現在もその歴史的価値を維持・継承するための活動が続けられています。

ロマネスク様式の美と、聖書の物語

サン＝サヴァン・シュル・ガルタンプ修道院付属教会は、ラテン十字型に設計されており、その内部は12世紀から13世紀の壁画群で飾られています。これらの壁画は、フレスコ画とテンペラ画の中間的な技法で描かれており、黄色、赤、緑といったシンプルな色使いながら、聖書の物語を鮮やかに描き出しています。

ポーチの壁画には、「栄光の内にあるキリスト」やヨハネの黙示録の場面が描かれ、一般席には「降架」や聖人たちの肖像が、身廊には創世記や出エジプト記の物語が、壮大なスケールで表現されています。特に、ノアの箱舟の場面は、その独特な船の表現から有名です。地下納骨堂にはサヴァンとシプリヤンの生涯と殉教の物語が、内陣には1050年に作られた祭壇が残されています。翼廊と小後陣にはそれぞれ、大天使、使徒、聖女、殉教者、聖マルティヌスなど、様々な聖人たちが描かれた壁画が残されています。

世界遺産としての価値

この教会堂は、人類の創造的才能を表現する傑作であり、現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の稀な証拠として、世界遺産登録基準(1)と(3)を満たしています。ロマネスク様式建築と壁画芸術の優れた融合、そしてその歴史的価値は、後世に伝えるべき重要な文化遺産と言えるでしょう。その見事な壁画群は、中世の信仰と芸術の粋を凝縮した、まさに歴史の証人と言えるでしょう。

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