サーベラス・キャピタル・マネジメント

アメリカ合衆国に本拠を置くプライベート・エクイティ・ファンドです。「サーベラス」という名称は、ギリシア神話に登場する冥界の番犬ケルベロスに由来しています。その運営資金は、主にアメリカ国内の年金基金や様々な機関投資家からの投資信託によって成り立っています。かつてアメリカ合衆国の副大統領を務めたダン・クエール氏が顧問を務めた経歴を持ち、現在はブッシュ政権下で財務長官を務めたジョン・スノー氏が会長の任にあります。

概要と主要な投資事例

サーベラスは、企業の買収や再建投資を主要な事業としています。海外における注目すべき投資事例の一つとして、2007年5月にダイムラー・クライスラーからクライスラー部門の株式約8割を取得したことが挙げられます。しかし、その後のクライスラーの経営状況悪化により、2009年4月末の破産申請に伴い、この投資は価値を失いました。

日本における事業展開

日本市場へは1998年4月に東京に「サーベラス・ジャパン株式会社」を設立して進出しました。2000年代に入ると、経営不振に陥った日本の企業に対し、大口の出資を通じて積極的に関与するようになります。その過程で、いくつかの注目すべき出来事がありました。

例えば、傘下にあった昭和地所が関わる南青山での再開発事業に関して、暴力団との関与を示唆する記事を掲載した毎日新聞に対し、2006年1月に名誉毀損を理由に115億円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。この件では、新聞社の関係者に脅迫的な物品が送付される事態も発生しましたが、同年12月にはサーベラス側からの申し入れにより和解が成立しています。また、サーベラスグループから西武ホールディングス（西武HD）に派遣された3名の人物が取締役への就任を辞退するという一幕もありました。

かつて大口出資先であったあおぞら銀行については、2009年に新生銀行との経営統合計画が持ち上がりましたが、2010年5月に新生銀行側の都合により実現しませんでした。サーベラスはその後、2012年までにあおぞら銀行の保有株式を売却しています。

西武ホールディングスを巡る経緯

日本におけるサーベラスの活動の中で最も広く知られているのは、西武ホールディングス（西武HD）を巡る一連の動きでしょう。2006年2月、当時の会長であった堤義明氏を中心とした有価証券偽造事件を受けて上場廃止となっていた西武鉄道に対し、経営再建資金として約1000億円を出資しました。当初は友好的な関係が保たれていましたが、2012年頃になると、西武HDの再上場時の株価設定などを巡って経営陣との間に亀裂が生じます。

同年10月12日、サーベラスは西武HDに対し、47項目に及ぶ要求書を提出しました。その中には、多摩川線や山口線などの「不採算路線」とされる5路線の廃止や、プロ野球球団である埼玉西武ライオンズの売却といった踏み込んだ内容が含まれていました。しかし、当時の西武HD社長であった後藤高志氏は、これらの要求を明確に拒否しました。この時期、サーベラス側は公式には廃線や球団売却の提案を否定しつつも、同時に要求書は「私信」であり、その公開は不当であるとの声明を出すなど、情報の開示を巡る混乱も見られました。

これに対し、サーベラスは2013年3月12日から、1株1400円での敵対的株式公開買付け（TOB）を実施しました。目標は保有比率を44.67%まで引き上げ、経営権を掌握することでしたが、5月31日の期限までに取得できた株式は全体の3.04%にとどまり、保有比率は32.44%から35.48%に増加したものの、目標には達しませんでした。これにより、サーベラスによる敵対的TOBは失敗と評価されました。

さらに、2013年6月25日の西武HD定時株主総会では、サーベラス側が顧問のダン・クエール氏や会長のジョン・スノー氏、さらには元金融庁長官の五味廣文氏らを含む8名の取締役候補を選任するよう提案しましたが、西武HD経営陣の反対により、これも株主総会で否決されました。この結果、後藤社長を中心とした従来の経営体制が維持され、サーベラスが経営権を掌握する試みは失敗に終わりました。

この一連の出来事は両社の間に感情的な対立を生み、一時は訴訟の可能性も取り沙汰されるなど、サーベラスCEOのスティーブン・ファンバーグ氏と西武HD後藤社長の間で激しい応酬が見られましたが、敵対的TOBの終了後は両社の対立関係は次第に緩和に向かいました。2014年4月23日に西武HDが9年ぶりに株式再上場を果たすと、初値は西武側が想定していた1600円となり、その後株価は上昇。同年6月25日の定時株主総会までには、サーベラス側がTOBの根拠としていた2000円を超える水準に達しました。これにより、この総会ではサーベラス側からの経営陣に対する新たな提案はなく、西武HD側が提案した議案がスムーズに承認されました。

日本事業の縮小と撤退

西武HDを巡る一連の投資事業が難航したことも影響し、2014年以降、サーベラスによる日本事業の縮小が報じられるようになります。同年1月には、国際興業や西武HDの一部保有株を売却したと報じられ、2月には日本からの撤退を示唆する報道も出ました。2015年5月には、ロイター通信が、サーベラスが西武HD以外の日本国内の全投資先株式を売却するとともに、サーベラス・ジャパン社で約15名の人員削減を行うと報じました。この人員削減には、2002年からサーベラス・ジャパンの共同CEOを務め、2010年からは代表取締役社長を務めていた鈴木喜輝氏も含まれるとされ、鈴木氏は実際に2015年6月に社長を退任し退職しました。また、11年間にわたり日本で副社長・COOとして活動し、鈴木氏の退任後も数名のスタッフと共に残っていたブライアン・サンダース氏も2015年中に日本を離れました。

ロイター通信はこの報道の中で、時に「ハゲタカファンド」と批判的に呼ばれることのあった米国のプライベート・エクイティ・ファンドの中で、サーベラスは日本から撤退する最後の主要ファンドの一つであると伝えました。この時期、サーベラス・ジャパン社の業務は西武HD株の管理にほぼ限定されていましたが、西武側の業績回復や保有資産に対する市場評価の上昇による上場後の株価上昇を受け、サーベラスは2015年5月以降、保有する西武HD株式の売却を段階的に開始します。最終的に、2017年8月には、サーベラスが保有していた西武HDの全株式を売却し終えたことが明らかになりました。

日本における主な過去の投資先

サーベラスが日本で投資を行った主な企業・グループには以下のようなものがあります。

ダイア建設
長崎屋（ドン・キホーテへ売却）
あおぞら銀行（2012年に保有株を売却）
ラディアホールディングス（旧グッドウィル・グループ）
木下工務店（現在の木下グループ）
昭和地所
国際興業（2014年に国際興業ホールディングスへ保有株を売却）
帝国ホテル（国際興業から株式を取得した三井不動産と提携）
西武ホールディングス（2017年8月に全保有株を売却）
西武鉄道
* 埼玉西武ライオンズ

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