ザカルパッチャ州

ザカルパッチャ州：歴史と文化が交錯するウクライナ最西端の地

ザカルパッチャ州は、ウクライナの最西端に位置し、カルパティア山脈の南西斜面と麓に広がる地域です。州都はウージュホロドで、歴史的にカルパティア・ルテニアと呼ばれた地域の中核をなしています。この地域は、その地理的な特性から、歴史を通じて様々な国家の影響を受け、多様な民族が共存する独特の文化を形成してきました。

歴史：多民族支配と独立の歴史

ザカルパッチャ州は、ウクライナ人が多く住む地域でありながら、カルパティア山脈という障壁によって、オーストリア帝国、ポーランド王国、ハンガリー王国、チェコスロバキア共和国など、ウクライナとは異なる国家の支配下に置かれてきました。9世紀頃にはモラヴィア王国、その後はブルガリア帝国、キエフ大公国、ハンガリー王国の支配を受け、16世紀以降はハプスブルク帝国、オスマン帝国、オーストリア帝国の一部となりました。

1918年の第一次世界大戦後、オーストリア＝ハンガリー帝国が崩壊すると、この地域は西ウクライナ人民共和国に合流を試みましたが、ポーランド・ウクライナ戦争によって実現しませんでした。サン＝ジェルマン条約とトリアノン条約の結果、チェコスロバキアの領土となり、自治が認められましたが、1939年にはカルパート・ウクライナとして独立を宣言するも、ハンガリー軍によって占領されました。

第二次世界大戦末期にはソ連軍がこの地域を解放し、ザカルパート・ウクライナとして独立を宣言しましたが、後にソビエト・ウクライナに併合されました。ソ連崩壊後はウクライナの一部となりましたが、現在でもルシン人による独立運動が存在するなど、複雑な民族構成が残っています。

地理：山岳地帯と多様な自然

ザカルパッチャ州は、その80%がカルパティア山脈などの山地で占められており、平野部はわずか20%しかありません。この州には、ウクライナ最高峰のホヴェールラ山（標高2061m）があります。面積は12,777平方キロメートルと、ウクライナの他の州に比べて小さいですが、その地理的な多様性は特筆すべきものです。

この州は東にイワノ＝フランキウシク州、北にリヴィウ州と接しており、北西にポーランド、西にスロバキア、南西にハンガリー、南にルーマニアと、4つの国と国境を接しています。その地理的な位置から、歴史的に重要な交通の要衝でもありました。

行政区画：2020年の改革

ザカルパッチャ州は、2020年の地方行政改革により、従来の13のラヨン（地区）から、新たに6つのラヨンに区分されました。さらに各ラヨンは、フロマーダ（領域共同体）という下位行政区分で細分化されています。

人口：農村部と山岳地帯の人口構成

ザカルパッチャ州の人口は、ウクライナ全体の約2.6%を占めており、2021年には約125万人と推定されています。1950年代から1960年代にかけて人口が大幅に増加しましたが、1995年以降は減少傾向にあります。

住民の62.9%は農村部に住んでおり、各村の平均人口は14,000人と、ウクライナ全体の平均である7,000人の倍です。また、人口の5分の1は山岳地帯に居住しており、山間部の生活が地域の特徴の一つとなっています。

統計：民族構成と母語

2001年のウクライナ国勢調査によると、ザカルパッチャ州の人口構成は、ウクライナ人、ハンガリー人、ルーマニア人、ルシン人など、多岐にわたっています。母語としては、ウクライナ語、ハンガリー語、ロシア語などが話されています。この地域は、民族的にも言語的にも多様な文化が交錯していることがわかります。

発電：水力発電の可能性

ザカルパッチャ州は年間20億 kWhの電力を消費しており、その一部は水力発電によって賄われています。水力発電の潜在能力はウクライナで最も高く、102億kWhに達すると言われています。山地が多い地形が、水力発電に適した環境を生み出しています。

交通：鉄道と道路網

ザカルパッチャ州の鉄道は総延長580kmに達しており、ハンガリーからウクライナを横断する鉄道が重要な役割を果たしています。この鉄道は、ヴェネツィアとキーウを結ぶ汎ヨーロッパ回廊の一部でもあります。また、スロバキアとの鉄鉱石輸送に使われる鉄道や、縦断する鉄道も存在します。自動車交通は鉄道網を補完しており、主要な道路が整備されています。

公共交通機関としてはバスとタクシーが利用されています。州都のウジホロドには、トロリーバスや路面電車がないなど、他の都市とは異なる特徴があります。また、ウジホロド国際空港は、2022年のロシアのウクライナ侵攻により、現在は使用停止となっています。

出身者：多様な分野で活躍する人々

ザカルパッチャ州出身者には、歴史家のユーリー・ヴェネーリン、ノーベル賞受賞者のミルトン・フリードマンの両親、イギリスの実業家ロバート・マックスウェル、ハンガリーの画家ムンカーチ・ミハーイなど、様々な分野で活躍する人々がいます。


ザカルパッチャ州は、その地理的特性と歴史的経緯から、多様な民族と文化が共存する、非常に魅力的な地域です。豊かな自然、複雑な歴史、そして多文化が融合したこの地は、訪れる人々に特別な体験を提供してくれるでしょう。

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