ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世の肖像

『ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世の肖像』は、イタリア・ルネサンス期を代表する画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって描かれた油彩画です。この作品は、1548年から1550年の間に、アウクスブルクで制作されたと考えられています。描かれているのは、ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世（1503-1554年）その人です。この肖像画は、同じくティツィアーノが描いた鎧姿の『ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世の肖像』と共に、1558年にマリア・フォン・エスターライヒのコレクションに記録されています。

歴史的背景

ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世は、プロテスタント同盟軍の指揮官として、1547年のミュールベルクの戦いで神聖ローマ皇帝カール5世率いるカトリック軍に敗れ、捕虜となりました。彼は1552年まで幽閉生活を送ることになります。ティツィアーノは、カール5世の招きで1548年と1550年から1552年の2度にわたりアウクスブルクに滞在しています。この滞在中に、ティツィアーノは多くの君主や王族の肖像画を手掛けましたが、現存するものはごくわずかです。その中には、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークに所蔵される『カール5世の肖像』や、プラド美術館にある『カール5世騎馬像』などが含まれます。

当時、アウクスブルクにいた君主たちの中で、特に注目を集めたのが捕虜となっていたヨハン・フリードリヒ1世でした。ティツィアーノは、1回目のアウクスブルク滞在時に鎧姿の肖像画を描いており、現在プラド美術館に所蔵されています。そして、2度目の滞在時、1550年11月11日の手紙には皇帝による歓迎会のことが記されており、おそらくこの時期に、現在ウィーン美術史美術館に所蔵されている本作『ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世の肖像』が制作されたと考えられています。

作品の特徴

この肖像画では、選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世は、黒い服と褐色のクロテンの毛皮の肩掛けを身に着け、黒い帽子を手に持ち、アームチェアに腰掛けています。捕虜の身でありながらも、その表情は気品を失わず、強い生気と同時に疲労の色も感じられます。特に頭部の描写は非常に緻密で、ドイツの画家ルーカス・クラナッハの作品を参考にしているという説も有力です。頭部や両手といった明部と、黒と褐色で表された身体の暗部の対比は、ティツィアーノ独自の卓越した絵画技術を示しています。

美術史家ゲオルク・グロナウは、作品に大きな損傷があるにもかかわらず、「ティツィアーノの筆致が随所に見て取れる」と評しています。また、チャールズ・リキッツは、この作品の写真はどれも満足のいくものではないと述べています。これらの評価は、作品の持つ複雑さと、その保存状態の難しさを物語っています。

ギャラリー

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参考文献

前川誠郎・クリスティアン・ホルニッヒ・森田義之『カンヴァス世界の大画家9　ジョルジョーネ/ティツィアーノ』、中央公論社、1984年刊行 ISBN 4-12-401899-1
Gronau, Georg (1904). Titian. London: Duckworth and Co; New York: Charles Scribner's Sons. pp. 148–152, 277.
Ricketts, Charles (1910). Titian. London: Methuen & Co. Ltd. pp. 117–119, plate cxi.
"Juan Federico I de Sajonia". Colección. Museo del Prado. Accessed 5 September 2022.
"Kurfürst Johann Friedrich von Sachsen". Kunsthistorisches Museum. Accessed 29 August 2022.

外部リンク

美術史美術館公式サイト、ティツィアーノ『ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世の肖像』 (英語)
* プラド美術館公式サイト、ティツィアーノ『ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ1世の肖像』 (英語)

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