ザ・タイガース ハーイ!ロンドン

ザ・タイガース ハーイ! ロンドン

『ザ・タイガース ハーイ! ロンドン』は、1969年に製作・公開された日本の劇場映画です。1960年代後半、グループサウンズ（GS）ブームの絶頂期に圧倒的な人気を誇ったザ・タイガースが主演を務めた作品としては、これが第3作目にあたります。公開当時の正式タイトルは単に『ハーイ! ロンドン』でした。

本作は、多忙を極めるザ・タイガースのメンバーたちの前に悪魔が現れ、彼らが渇望する「自由な時間」を、自身の「魂」を担保として提供するという、奇妙な取引を持ちかけるところから物語が展開する幻想的なコメディです。監督は、加山雄三主演の「若大将シリーズ」を多数手掛けた岩内克己。脚本は、ザ・タイガースの過去2本の主演作も担当した田波靖男が引き続き務めました。撮影は、後に『ゴジラ』（1984年版）などを手掛ける原一民が担当しています。

製作背景とキャスト

本作は、前2作でメンバーであった加橋かつみが脱退し、新たに岸部シローが加入したザ・タイガースにとって、新体制で臨んだ最初の主演映画となりました。しかしながら、皮肉なことにこれがザ・タイガースとしての最後の主演映画ともなりました（グループは1971年1月に解散）。

物語の中でドキュメンタリー風に挿入されるファンのコメントからは、当時のGSブームが急速に変化していく中で、ザ・タイガース自身も今後の方向性を模索していた時代の空気が感じられます。作品全体としては、当時のアイドル映画としての側面が強いものの、劇中で使用される楽曲は、以前の作品に比べてより成熟した、大人びた印象を与えるものが増えています。

ヒロインの新倉めぐみ役を演じたのは久美かおりです。彼女は劇中で、映画公開直後の1969年8月にリリースされた自身のシングル曲「髪がゆれている」を披露しています。この曲は発売当時は大きなヒットには至りませんでしたが、現在では和製ボサノヴァの隠れた名曲として再評価され、多くのコンピレーションアルバムに収録されています。久美かおりは本作への出演をもって芸能活動を休止し、翌年には引退したため、この曲が彼女にとって最後のシングルリリースとなりました。

物語の概要

連日の過密スケジュールにうんざりしていたザ・タイガースのメンバー、特にジュリー（沢田研二）は「自由な時間が欲しい」と願います。その心に応えるように現れたのは、出門鬼太郎と名乗る悪魔の化身でした。鬼太郎は時間を売る契約を持ちかけますが、契約時間内に戻らなければ魂を失うという条件を提示します。最初は他のメンバーは半信半疑でしたが、ジュリーが3時間の契約を結び、自由な時間を満喫した体験を聞き、やがてメンバー全員で24時間の契約を結びます。

悪魔の真の狙いは5人の魂でした。鬼太郎は魔女マジョリーに命じ、メンバーが契約時間内に戻れないように様々な妨害を仕掛けます。窮地に陥った彼らを救ったのは、作曲家だった父がロンドンに残した楽譜を求めていた新倉めぐみでした。めぐみは父の曲を歌って歌手になる夢を追いかけており、タイガースにロンドン行きへの協力を依頼します。ジュリーは悪魔に魂を売らなかった唯一の人物が新倉という作曲家だったと鬼太郎から聞き、彼らはめぐみのために鬼太郎と1週間の契約を結び、ロンドンへ旅立ちます。

ロンドンで束の間の自由を満喫する5人ですが、鬼太郎の策略によって所持金やパスポートを失います。しかし、偶然ロンドンに留学のため来ていためぐみと再会し、救われます。目的の楽譜を手に入れた5人とめぐみは帰国しますが、時差の計算を忘れていたために契約時間を過ぎてしまいます。魂を奪おうと迫る鬼太郎に対し、メンバーは抵抗。鬼太郎は、もし誰かメンバーの誰かを深く愛する者が代わりに魂を提供すれば許すと言います。ジュリーを愛していためぐみは自分の魂を差し出すことを申し出、その代わりに父親が残した歌をジュリーが歌うことを望みます。

ザ・タイガースが心を込めてその歌を演奏すると、鬼太郎は苦しみだし、蛙の姿に変わってしまいます。めぐみは感動しながら彼らの演奏を聴き、ザ・タイガースは世界デビューを果たすという結末を迎えます。

音楽とソフト化

本作のサウンドトラック盤は、公開当時には単独でリリースされませんでした。しかし、1982年にはザ・タイガースの主演映画3作品の音源を編集した『想い出の映画サントラのすべて』としてカセットテープのみで発売されています。さらに2002年には、ポリドールより『ザ・タイガース レア&モアコレクションII ～オリジナル・サウンドトラック編～』としてCD化され、再リリースされました。

劇中で使用された楽曲の多くは、すでにレコードとして発売されていたバージョンですが、未発表曲「Lovin' Life」のレコーディング風景の映像や、「風は知らない」における岸部シロー加入後初のレコーディングとみられる未発売テイク（加橋かつみのパートをシローが吹き替えたとされる）が使用されているなど、貴重な音源が聴ける点も特徴です。

本作は、2007年10月より東宝からDVDが発売されており、現在でも映像で楽しむことができます。

同時上映

本作は、加山雄三主演の「若大将シリーズ」第14作にあたる『ニュージーランドの若大将』（監督：福田純）と同時上映されました。

主な出演者

ザ・タイガース（沢田研二、岸部おさみ、森本太郎、瞳みのる、岸部シロー）
久美かおり（新倉めぐみ）
藤田まこと（出門鬼太郎）
左とん平（石川）
小松政夫（山崎）
アダムス（グループ・サウンズ）
杉本エマ（魔女マジョリー）

主なスタッフ

製作：渡辺晋、田波靖男
監督：岩内克己
脚本：田波靖男
音楽：村井邦彦
撮影：原一民

本作は、GSブームの熱狂とその変化、そして当時の人気アイドルグループが置かれていた状況を映し出す貴重な記録とも言える作品です。

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