ザ・ワンダース

ザ・ワンダースは、1967年に日本の音楽シーンに登場したコーラス・グループであり、当時のグループ・サウンズ（GS）の一角を占めました。後の国民的歌手となる尾崎紀世彦が在籍していたことでも知られ、リーダーの栗敏夫、朝紘一（朝コータロー）と共に、短期間ながらも印象的な活動を展開しました。特に、別名義「ジ・エコーズ」としての活動は特筆されます。

結成と初期の歩み

グループの誕生は1967年1月10日。その前年の1966年頃、四国で開催されたジョイントライブで、当時ジミー時田とマウンテンプレイボーイズにいた尾崎紀世彦と、ザ・タドポールズのメンバーだった朝紘一、栗敏夫が出会いました。同年代ということもあり、すぐに打ち解けた三人は音楽への情熱を共有し、共にグループを結成することを決めました。

結成当初、彼らはジャズ喫茶や米軍キャンプでの演奏を中心に音楽活動をスタート。レパートリーは、ウォーカー・ブラザーズやザ・ビートルズといった海外の人気グループのカバー曲が中心でした。

メジャーデビューと二つの顔

地道な活動を続ける中で、彼らの実力が日音のプロデューサー、村上司氏の目に留まり、スカウトされるに至ります。そして1967年8月、テイチクレコードからシングル「明日への道」とアルバム『ニューカマー・ザ・ワンダース』を同時にリリースし、メジャーデビューを果たしました。

しかし、彼らはテイチク専属という契約上の理由から、他社が原盤を製作する作品で「ザ・ワンダース」の名前を使用できないという状況に直面します。この制約が最も影響を与えたのが、特撮テレビ番組『ウルトラセブン』でした。同番組の音楽制作を担当していた日音のプロデューサー、木山貢吉氏の働きかけにより、ザ・ワンダースが主題歌や挿入歌を歌うことになりましたが、日音が原盤を作り各レコード会社に音源を提供する方式だったため、テイチク以外の発売元となる楽曲では別名義が必要となったのです。

そこで、村上プロデューサーと木山プロデューサーによって考案されたのが「ジ・エコーズ」という名義でした。これにより、ザ・ワンダースはライブ活動やテイチクでの録音はそのままのグループ名で行い、他社の企画によるテレビ主題歌や挿入歌、さらには軍歌などの録音はジ・エコーズとして発表するという、二つの名義を使い分ける活動を展開しました。ジ・エコーズ名義では、『ウルトラセブン』関連楽曲のほか、アニメ『巨人の星』の副主題歌なども手掛けています。

短命に終わった活動と解散

精力的な活動にもかかわらず、当時のグループ・サウンズブームが終焉を迎えつつあった1969年秋、ザ・ワンダースの活動は短期間で幕を閉じます。村上プロデューサーは、グループとしての活動が期待された成果に結びついていない現状を踏まえ、メンバーそれぞれが個別の才能を活かす新たな道を進むことを提案しました。具体的には、栗敏夫には音楽制作のスタッフへ、朝紘一には作詞家へ、そして尾崎紀世彦にはソロボーカリストとしてのキャリアを勧めたのです。メンバーは自身の将来を考慮し、この提案を受け入れ、グループの解散に至りました。

解散後のメンバーそれぞれの道

グループ解散後、メンバーはそれぞれの分野で新たなキャリアを築きました。リーダーだった栗敏夫は、表舞台での歌手活動から退き、日音の音楽制作スタッフとして音楽業界を裏側から支える立場となりました。

朝紘一は、ヒデ夕樹のソウルフル・ブラッズへの参加や、1973年の「ヒデとコータロー」結成など、引き続き音楽活動を展開。ソロ名義（朝紘太郎、朝コータロー、朝礼志など）でも、日立グループのCMソング「日立の樹」やアニメ『スーパーロボットレッドバロン』の主題歌など、多くの楽曲を担当しました。さらに、映画やテレビ番組でのナレーション、声優、後進の指導にあたるボイストレーナーなど、その活動範囲は多岐にわたります。

尾崎紀世彦は、村上プロデューサーの後押しを受けて、ナイトクラブでの弾き語りからソロ活動を開始しました。村上氏は彼のソロデビューを支援するため、毎日のように彼の出演する店に足を運んだといいます。そして、ソロデビューからわずか半年後、「また逢う日まで」が驚異的な大ヒットを記録し、尾崎紀世彦は一躍スターダムにのし上がりました。解散後も、栗とは歌手とプロデューサーとして、朝とはステージで共演するなど、メンバー間の交流は続きました。

時を超えた再結成

解散から40年以上を経た2010年7月末、ザ・ワンダースは特別なプロジェクトのために再結成を果たします。仙台放送が制作した特別企画DVD『懐かしのせんだい・みやぎ映像集続・昭和の情景』に協力し、新たなオリジナルテーマソング「ぐいぐい走れ仙石線」と、かつてジ・エコーズ名義で歌唱した「ウルトラセブンの歌」を録音しました。「ウルトラセブンの歌」は、当時のメンバーによる43年ぶりのセルフカバーであり、この録音を通じて、本来のグループ名である「ザ・ワンダース」名義で初めて公式にリリースされるという歴史的な出来事となりました。この録音における「ウルトラセブン」のコーラスパートは、1回目を朝コータロー、2回目を小栗俊雄（栗敏夫の本名）、3回目を尾崎紀世彦が担当し、往年のファンを喜ばせました。

ディスコグラフィとテレビ出演

ザ・ワンダースおよびジ・エコーズ名義で、多数のシングルやアルバムを発表しています。主なシングルには、デビュー曲「明日への道」のほか、「霧と恋」「赤い花びら」「僕のマリア」などがあり、洋楽の日本語カバーや、当時のテレビ番組とのタイアップ楽曲も多く含まれます。ジ・エコーズ名義では、特筆すべきものとして「ウルトラセブンの歌」や「友情の虹」（『巨人の星』副主題歌）などがあります。アルバムとしては『ニューカマー・ザ・ワンダース』などがリリースされました。

また、テレビ番組への出演もあり、「ヤング720」（TBS）やNHKの「音楽の花ひらく」「私達の演奏会」「昼の軽音楽」などでその歌声を披露し、当時の視聴者に親しまれました。

ザ・ワンダースは短い活動期間ではありましたが、その多名義での活動、メンバーそれぞれの解散後の華々しいキャリア、そして後年のサプライズ再結成など、日本のポピュラー音楽史において記憶されるべきユニークな存在です。

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