シグマ・MC73

シグマ・MC73/GC73：日本の挑戦を刻んだレーシングカー

1973年、シグマオートモーティブ（現サードの前身）によって設計・開発されたシグマ・MC73は、日本のモータースポーツ史にその名を刻む一台です。ル・マン24時間レースへの初挑戦を果たしたことで広く知られており、映画「栄光のル・マン」にもその姿が映し出されています。MC73は富士グランチャンピオンレース（富士GC）参戦マシンであるGC73をベースに、国際[[自動車連盟]]（FIA）のメイクス世界選手権規定に適合するよう開発されました。GC73自身も1977年シーズンまで富士GCに5シーズン連続参戦するなど、活躍を続けました。

開発の背景：富士スピードウェイの挑戦

開発の端緒は、1972年に生沢徹が富士GC用にヨーロッパから購入したGRD-S72というレーシングカーに遡ります。そのメンテナンスを請け負ったシグマオートモーティブは、富士スピードウェイ6kmコースの特性に着目しました。当時、このコースは1.6kmにも及ぶ長いストレートと30度バンクを有する、世界でも類を見ない高速サーキットでした。

ヨーロッパのサーキットには、このような高速コーナーを持つコースは存在せず、既存の2000ccスポーツカーでは30度バンクに対応することが困難でした。強大な重力加速度によりサスペンションが底付きし、シャーシが路面に接触するという問題が発生していたのです。

一般的な対策としては、バネレートやパッカー硬度の向上、シャーシ底面への摺り板取り付けなどが挙げられますが、これらはロールセンターの高さを変化させ、コーナーリング性能を低下させてしまうという新たな課題をもたらしました。さらにGRD-S72は、トレッドが広いことが特徴で、高速サーキットでは空気抵抗が増大し最高速度を低下させるという問題点も抱えていました。

そこでシグマは、GRD-S72の構造を参考にしながらも、富士スピードウェイの高速ストレートと低速コーナー、両方の性能を両立できるオリジナルマシンGC73、そしてその進化版であるMC73の開発に着手しました。設計者である小野昌朗氏は、GRD-S72からの影響は否定しつつも、基本構造は当時一般的だったものとしながらも、パッケージングやサスペンション部品は完全にオリジナルであると証言しています。

基本構成：進化した設計思想

シャーシ: GC73/MC73は、GRD-S72と同様のツインチューブアルミモノコックを採用。エンジンマウントもスペースフレーム方式を踏襲しつつ、アルミモノコックの強度向上とサスペンションジオメトリーの最適化により、30度バンクへの対応を実現しました。

ボディカウル: GRD-S72のウエッジシェイプとは異なり、前面投影面積を小さくすることでフロント荷重を確保し、フロントノーズとリアウイングでダウンフォースを生成、その他の部位ではドラッグ低減を優先した空力設計がなされました。特にリアウイングは、低位置マウントと形状変更により、ダウンフォースの増加とドラッグの低減を両立しています。

エンジン: 初期はトヨタの2T-Gターボを搭載する予定でしたが、供給が断念されたため、コスワースBDA、三菱R39B、マツダ12Aなど、複数のエンジンに対応可能な設計に変更されました。GC73にはこれらのエンジンが搭載され、MC73にはトヨタ2T-G（自然吸気）とマツダ12Aが搭載されました。

GC73とMC73の違い：異なるレギュレーションへの対応

メイクス世界選手権は2リットル超のスポーツカーが対象でした。FIAの規定では、ロータリーエンジンや過給機付きエンジンの排気量は換算係数を乗じて計算されるため、MC73は規定の最低重量をクリアするためにバラストを搭載する必要がありました。

ボディカウルは、スポーツカー規定のリアタイヤ後方地上高20cm以下という要求に対応するため、GC73と異なる形状となりました。また、ル・マンのユノディエール対策として、リアウイングのガイドフィンが廃止されています。さらに、MC73はグループ6規定に合わせ、左右対称のシャーシ設計となりましたが、グループ7規定のGC73は燃料タンクを右側に偏らせるなど、富士スピードウェイの右回りコースに合わせた非対称設計となっています。

レース成績：栄光と挫折

MC73は1973年のみの参戦でしたが、ル・マン24時間レースでは予選14位を獲得するも、クラッチトラブルでリタイヤという結果に終わりました。一方、GC73は、1973年から1977年まで富士GCに参戦し、マツダ12A、そして13Bエンジンを搭載して活躍しました。1974年には富士500マイルレースで優勝を飾るなど、輝かしい成績を残しました。しかし、1974年の富士グラン300キロレースでの事故により、コースレイアウトが変更されるなど、その後は苦戦を強いられることになります。

シグマ・MC73とGC73は、当時の日本の技術力と情熱を結集したレーシングカーでした。その挑戦は、日本のモータースポーツの発展に大きく貢献しました。

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