シグマ・MC75

シグマ・MC75：ル・マンに挑戦した日本の誇り高き挑戦者

1975年、シグマ・オートモーティブ（現在のサードの前身）は、トヨタの1.6リッターターボエンジン2T-Gを搭載したスポーツカー、シグマ・MC75でル・マン24時間レースに挑戦しました。グループ5規定に準拠したこのマシンは、日本車の挑戦の歴史に新たな1ページを刻むことになります。

開発の経緯と背景

シグマ・オートモーティブは、1973年にシグマ・MC73でル・マンに初参戦。当初はトヨタエンジンでの参戦を目指していましたが、事情によりマツダロータリーエンジンを搭載していました。そして1975年、念願だったトヨタエンジンでの参戦が実現。加藤眞代表自らがチューニングを施した2T-Gターボエンジンは、330psという高い出力を誇りました。

スポンサーには、日本のレーシングチームでは初めてとなるマルボロが付き、鮮やかなカラーリングのマシンは大きな注目を集めました。ドライバーは、元トヨタワークスの高橋晴邦、1973年からの参戦メンバーである鮒子田寛、そしてトヨタ系の若手ドライバー、森泰正という強力な布陣でした。

マシンの詳細

シャーシ

MC75のシャーシは、中心となるツインチューブ・モノコックとリアサブフレームで構成されています。アルミパネルを使用した軽量なモノコックは、前モデルMC74より約15kg軽量化されました。燃料タンクは、ドライバー背後の120Lの大容量タイプです。様々なコンポーネントは、軽量化と冷却効率の最適化を考慮して配置されています。

サスペンション

フロントはダブルウイッシュボーン、リアは改良された4リンク式サスペンションを採用。コニ製ダンパーやロッキード製ブレーキなど、信頼性の高いコンポーネントが使用されました。前後アップライトとホイールはシグマ製マグネシウム鋳物を使用するなど、軽量化と性能向上に徹底的にこだわった設計です。

ボディカウル

空力性能の向上を追求したボディカウルは、ダウンフォースの確保と空気抵抗の低減を両立する設計。フロントはダルノーズ形状、リアにはウイングを搭載し、空力バランスを最適化しています。MC74よりも前方投影面積を減少させ、リアの乱流を抑制することで、最高速度の向上を目指しました。

エンジン

シグマにとって悲願であったトヨタ2T-G型1600ccDOHCターボエンジンは、ラジョイ製タービンとギャレット製バイパスバルブを搭載。電子制御燃料噴射システム（EFI）を採用し、コンピュータボックスでミクスチャやタイミングを調整可能でした。最高出力は330ps/9000rpm、最大トルクは26kgm/7000rpmに達しました。ル・マンでは耐久性を考慮し、280ps程度に抑えて参戦しました。しかし、当時の技術レベルとプライベーターチームの体制では、この強力なターボエンジンの扱いは容易ではありませんでした。

レースでの戦績

シグマ・MC75は、1975年の富士グランチャンピオンレース（富士GC）全5戦、日本海グランチャンピオンレース、ル・マン24時間レース、全日本富士1000kmレースに参戦しました。しかし、マシンの信頼性、特にターボエンジンと電子制御システムのトラブルに悩まされ、思うような結果を残すことができませんでした。

富士GC

富士GCでは、鮒子田寛がメインドライバーとして全5戦に参戦。電気系トラブルやサスペンショントラブル、エンジントラブルなどに苦しみ、完走を果たすことができませんでした。レースごとにマシンの改良を繰り返しましたが、完走は叶わず、結果としてシリーズチャンピオン獲得には至りませんでした。

ル・マン24時間レース

ル・マンでは、予選で規定タイムをクリアできず予選落ち。しかし、他チームの棄権により繰り上がりで決勝に進出しました。一時10位以内を走行する健闘を見せましたが、4時間後にエンジン油圧低下が発生。長時間にわたる修理を試みましたが、トラブルが再発し、リタイヤという結果に終わりました。

その他のレース

日本海グランチャンピオンレースや全日本富士1000kmレースでも、オイルトラブルやマシントラブルが発生し、完走することができませんでした。

結論

シグマ・MC75は、日本のプライベーターチームによる、ル・マン24時間レースへの挑戦という大きな目標を掲げて開発されたマシンでした。最先端技術を搭載したマシンは、高いポテンシャルを持っていましたが、信頼性の課題を克服することができず、完走という目標を達成することはできませんでした。しかし、その挑戦は、日本のモータースポーツの発展に大きな影響を与えたことは間違いありません。彼らの挑戦は、後世のレーシングチームにとって貴重な経験と教訓を残したのです。このプロジェクトは、日本の自動車技術の進化、そしてモータースポーツ界における日本の挑戦の歴史を象徴するものです。そして、彼らの挑戦の精神は、今もなお、日本のモータースポーツ界を支えているのです。

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