シコルスキー Xウイング

シコルスキー S-72 Xウイングの概要

シコルスキー S-72 Xウイングは、1983年から1988年にかけて開発された革新的な航空機で、NASAと国防高等研究計画局（DARPA）の支援を受けています。この機体は、ヘリコプターと固定翼機を組み合わせた構造を持っており、実験的な研究を目的としたローター・システム検証航空機（RSRA）として位置付けられています。実際、シコルスキー社はこの機体を通じて回転翼と固定翼航空機の性能を探求しました。

機体の構造

S-72は、シングルローターのヘリコプターの胴体を基に、小型の固定翼が追加された形状をしています。機体の推進には、胴体の側に取り付けられたターボファンエンジンを利用し、総合的な飛行性能を向上させています。特に、高速の水平飛行時には、主翼から得られる揚力を活用する点が特徴的です。推進用エンジンであるTF-34は、必要に応じて取り外すこともでき、この機能により、回転翼のみの空力特性の測定が可能になります。

乗員は、機長、副操縦士、さらに電子機器操作員の3名で構成されており、電子機器操作員は操縦区画の後方を向いた席にいます。この設計は、操作の効率性を考慮したものです。さらに、約12年間の運用寿命を想定して設計されていて、テスト飛行を行うための体制が整っています。

飛行形態の変換

S-72の他の重要な特徴の一つは、3つの異なる飛行形態間での変換が可能な点です。これには、純ヘリコプター形態、複合ヘリコプター形態、そして固定翼機形態があります。これらの変換は、最大で2時間の整備作業で行うことができ、具体的には部品の交換や固定翼の取り外しが含まれます。

各形態はそれぞれ異なる構造を持ち、特に固定翼機形態では主翼の操縦が可能です。心配されるのは、これらの変形が飛行性能にどのように影響するかという点です。しかし、設計段階でこれらの問題に対処するために多くの努力がなされました。

研究と性能評価

S-72は、回転翼航空機の性能を評価するために開発された機体です。NASAやアメリカ陸軍から提供された予算によって、回転翼や固定翼の特性を評価するための飛行試験が行われました。この航空機は、速度や揚力の特性を調査するためのデータを収集することを目的としており、特に300ノット（約560 km/h）までの高速飛行に耐える設計がなされています。

特異な脱出機構

この航空機は、同時代の回転翼機には珍しい脱出機構も搭載しています。「スタンリー・ヤンキー摘出システム」と呼ばれるこの装置は、乗員が迅速に座席から切り離されることで、緊急時に迅速な脱出を可能にします。これにより、乗員は備えられたパラシュートで安全に地上に戻ることができます。

計画の変遷と終了

S-72プロジェクトは、1970年代から進行していた研究プロジェクトに基づいていますが、1988年には財政的な問題により正式に中止されました。Xウイングという名称は、固定翼部分の形状から名付けられ、将来的には実用機への発展が期待されていましたが、実際には技術開発や燃費効率の面での問題が解決されず、実用化には至りませんでした。

その後の改良や試験は一部行われたものの、資金不足による技術開発の停滞が影響を及ぼし、最終的にアメリカ航空宇宙局は資金を中止することになりました。これにより、この航空機が持つ可能性は十分に発揮されず、シコルスキー社によるより進んだ実用型の開発は実現しないままとなりました。

最後に

シコルスキー S-72 Xウイングの開発は、航空機技術の革新を試みた重要なプロジェクトであり、今なお多くの技術者にインスピレーションを与え続けています。自身の能力を最大限発揮できる理想的な機体であったにも関わらず、様々な課題からその可能性を完全には発揮できなかった点が残念です。今後の航空技術の進展において、このプロジェクトから得られた教訓が活かされることが期待されています。

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