シシリアン (1987年の映画)

『シシリアン』：シチリアの英雄と悲劇の物語

1987年、アメリカで公開された映画『シシリアン』(The Sicilian)は、イタリア・シチリア島を舞台に、実在した山賊サルヴァトーレ・ジュリアーノの波乱に満ちた生涯を描いた歴史ドラマです。マイケル・チミノ監督による演出、そしてクリストファー・ランバートが主人公ジュリアーノを熱演しています。

本作の原作は、世界的ベストセラー小説『ゴッドファーザー』で知られるマリオ・プーゾによる「ザ・シシリアン」。小説では、ジュリアーノがアメリカへの逃亡を図る場面や、コルレオーネ一家との関わりも描かれていますが、映画版ではジュリアーノ自身の生涯に焦点を当てた構成になっています。そのため、小説版に描かれた、ヴィトー・コルレオーネとジュリアーノとの繋がりは、映画では描かれていません。

映画『シシリアン』は、単なる犯罪史劇にとどまらず、シチリアの複雑な歴史的背景や社会情勢、そしてジュリアーノという一人の男の生き様を深く掘り下げています。貧困と暴力の渦中で育ち、やがては革命家として、また山賊として人々の前に現れるジュリアーノの姿は、観る者の心を揺さぶります。彼は民衆の英雄と見なされる一方、冷酷な側面も持ち合わせていた複雑な人物です。

映画では、ジュリアーノを取り巻く様々な人物も魅力的に描かれています。テレンス・スタンプ演じるボルサ公爵、ジョス・アクランド演じるドン・マジーノ・クローチェなど、個性豊かなキャラクターたちが物語を彩り、ジュリアーノの人生を多角的に照らし出しています。

マイケル・チミノ監督は、美しいシチリアの風景と、激動の時代を鮮やかに描き出し、息を呑むような映像美と緊迫感あふれる展開で、観る者を物語に引き込みます。また、デヴィッド・マンスフィールドによる音楽も、作品の世界観を効果的に演出しています。

1969年に公開されたフランス映画『シシリアン』とは全く異なる作品であり、リメイクでもありません。ジュリアーノの生涯を描いた作品としては、1962年制作のイタリア映画『シシリーの黒い霧』も有名です。これらの作品と比較することで、『シシリアン』の独自性や解釈の違いが見えてくるでしょう。

『シシリアン』は、単なるアクション映画としてだけでなく、歴史、社会、人間の業といった多様な要素を織り交ぜた、奥深い作品です。ジュリアーノという人物像を通して、シチリアの歴史と文化、そして人間の運命について、改めて考えさせられる、そんな作品と言えるでしょう。映画の最後、ジュリアーノの最期は、観る者に深い余韻を残すことでしょう。

スタッフには、監督のマイケル・チミノのほかに、製作にジョアン・カレリ、脚本にスティーヴ・シェイガンとゴア・ヴィダル（クレジットなし）、製作総指揮にシドニー・ベッカーマン、撮影にアレックス・トムソンといった実力派が名を連ねています。キャストも、クリストファー・ランバートのほか、テレンス・スタンプ、ジョス・アクランド、ジョン・タトゥーロ、リチャード・バウアー、バルバラ・スコヴァ、ジュリア・ボスキら豪華な顔ぶれです。これらの実力派俳優陣の熱演も、本作の大きな魅力となっています。

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