シディ

シディ：モンゴル帝国の遠征と謎めいた最期

シディ（Šidi、碩徳）は、13世紀後半にモンゴル帝国で活躍した傑出した人物です。彼の生涯は、軍事遠征から宮廷政治、そして謎に包まれた事件まで、数々のドラマチックな出来事に彩られています。正確な生没年は不明ですが、モンゴル帝国建国の功臣ムカリの曾孫にあたる、ジャライル部出身の領侯（ノヤン）でした。

輝かしい家系と優れた才能

シディの父は、モンケ、クビライ兄弟から期待されたナヤンですが、若くして病没しました。シディ自身も聡明で知られ、クビライの即位後は、皇帝の親衛隊であるケシクテイに加えられ、同知通政院事に任じられました。この職務においては、公平な裁定で知られたといいます。クビライが側近にシディの人物像を尋ねた際も、高い評価を得ていました。

黒竜江下流域への歴史的遠征

クビライ帝の治世下、黒竜江下流域（ヌルガン）では、ウェジやギレミなどの諸部族が内陸部への略奪を繰り返していました。この問題解決のため、クビライ帝は東への遠征を決意しますが、適任者の選定に苦慮していました。そこで、家系と知略に優れたシディが推薦され、遠征の任に就きます。

シディは険しい道のりを克服し、ヌルガン城に進出、東征元帥府を設置しました。夏は黒竜江を船で、冬は凍結した河面を犬ぞりで移動する過酷な環境でしたが、シディは道を開拓し、大元ウルス本土との連絡を容易にしました。ウェジ・ギレミの首長を討伐し、この地域を大元ウルスの支配下に組み込むという偉業を成し遂げました。この遠征は、後にモンゴルが樺太島での諸部族間の抗争に巻き込まれる遠因ともなりました。遠征の時期は定かではありませんが、中統4年（1263年）前後の出来事と考えられています。

宮廷政治への関与と謎の玉璽

黒竜江遠征後のシディの活動は記録が乏しいものの、ナヤン・カダアンの乱鎮圧や中央アジアへの使者派遣にも参加したと伝わっています。クビライ帝の晩年、シディの家から「受天之命、既壽永昌」と刻まれた玉璽（ハスボー・タムガ）が発見されるという重大事件が発生しました。これは失われた伝国璽とされ、宮廷に献上されましたが、後世の研究ではシディ側による偽造と見なされています。この事件は、クビライ帝の後継者争いに絡む、宮廷内の勢力闘争の一端を示唆しています。シディの妻がココジン・カトンと親族関係にあったことが、シディ家が事件の中心に選ばれた理由の一つと考えられています。

歴史的意義と未解明な点

シディは、東アジアにおけるモンゴル帝国の支配拡大に重要な役割を果たした人物です。黒竜江下流域への遠征は、東アジア史における画期的な出来事であり、彼の軍事力と指導力は高く評価されます。しかしながら、生涯の詳細は不明な点も多く残されています。特に、玉璽事件は、モンゴル帝国後期の政治状況を知る上で重要な謎となっています。彼の行動の背景、そして政治的立場について、更なる研究が求められます。シディの生涯は、モンゴル帝国の軍事力と政治的駆け引き、そして東アジアの歴史を理解する上で重要な視点を与えてくれます。今後の研究によって、彼の全貌がより明らかになることが期待されます。

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