シナウスイロイルカ

シナウスイロイルカ (Sousa chinensis)

シナウスイロイルカは、クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科に属するイルカです。ウスイロイルカと合わせて1つの種として分類されることもあり、その場合はシナウスイロイルカを亜種とします。

分布

シナウスイロイルカは、東シナ海からインドネシア、ニューギニア島、そしてオーストラリア北部にかけての浅い海域に生息しています。かつては、スマトラ島を境に東西で種を分けて考えられていましたが、交雑の可能性から、現在では一つの種として扱われることもあります。

形態

シナウスイロイルカはウスイロイルカによく似ていますが、背びれがより大きく、背中の隆起が小さいという特徴があります。また、口吻は細長い形状をしています。成体の体長は2mから2.8m、体重は150kgから200kg程度で、生まれたばかりの個体は体長が1m程度です。

体色については、生まれた直後は全身が黒または濃い灰色ですが、成長するにつれて薄くなり、成体になるとピンク色やピンクと白色、明るい灰色の斑模様になります。寿命は約40年で、香港では33歳程度の個体が確認されています。歯の断面図を観察することで、おおよその年齢を推定することが可能です。

行動

シナウスイロイルカの成体は、通常20秒から30秒に一度呼吸をします。深く潜水する際には2分から8分程度潜りますが、平均的には4分を超える潜水は稀です。未成熟な個体は呼吸の頻度が高く、潜水時間も3分程度が限界です。

社会的な動物であり、通常は3～4頭ほどの小さな群れで行動します。メスは約10歳、オスは約13歳で性的に成熟し、交尾は夏の終わりから秋にかけて行われ、妊娠期間は約11ヶ月です。子育ては仔イルカが自分で餌を捕れるようになるまで続けられ、成熟したメスは3年に一度ほどのペースで出産します。

人間との関わり

香港では「中華白海豚」と呼ばれ、親しまれています。野生のシナウスイロイルカを観察するドルフィンウォッチングが商業的に行われており、香港の人々の関心を高める一方で、イルカへのストレスを懸念する声もあります。

環境問題

香港近海は、シナウスイロイルカにとって危険な生息地となりつつあります。主な原因は、密漁、埋め立ての増加、海上交通の発展などです。生息域が限られているため、工業排水、農業排水、生活排水による汚染の影響を受けやすく、珠江デルタからは未処理の汚水が大量に排出されています。また、シナウスイロイルカの死骸からは、水銀などの重金属や有害な化学物質が検出されており、食物連鎖における深刻な汚染が懸念されます。

香港国際空港の建設や、その他の大規模な埋め立て開発によって、シナウスイロイルカの生息域は大幅に減少しています。さらに、魚の乱獲や船舶の航行による騒音も、シナウスイロイルカにとって脅威となっています。香港政府による漁業規制が少ないため、混獲による被害も増大する可能性があります。

絶滅危惧種としての位置づけ

シナウスイロイルカは、国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストで「危急種」に指定されており、中国では国家一級重点保護野生動物に指定されています。

年表

1637年: 冒険家ピーター・マンディーが香港で最初のシナウスイロイルカを発見。
1980年代後半: 環境保護主義者が生息数に注目。
1990年代初め: 香港国際空港の建設をきっかけに一般市民が関心を持つ。
1993年初め: 環境影響の再調査が実施され、マスメディアも注目。
1993年終わり: 香港農業水産管理局設立。
1996年: トーマス・ジェファーソンによる調査が開始。
1997年: 香港返還式典の公式マスコットに。
1998年: トーマス・ジェファーソンの研究成果が発表され、香港ドルフィンウォッチが設立。
2000年: 香港農業水産管理局による長期観察開始。珠江における生息数が80～140頭程度にまで減少。

関連項目

ヨウスコウカワイルカ: 長江に固有の絶滅危惧種。

外部リンク

* Sousa chinensis CMS (Conservation on Migratory Species)

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