シビーユ (エルサレム女王)

エルサレム女王シビーユの生涯

シビーユ（Sibylle de Jérusalem、1160年頃 - 1190年）は、中世エルサレム王国の女王であり、その生涯は政治的陰謀と戦乱に彩られています。父はエルサレム王アモーリー1世、母はアニエス・ド・クルトネーです。彼女の人生は、王位継承、結婚、そして王国の命運を左右する出来事と深く結びついていました。

生い立ちと結婚

シビーユは、アモーリー1世とアニエス・ド・クルトネーの間に生まれました。アモーリー1世が王位を継承すると、アニエスは在地諸侯の反対により離婚させられました。その後、シビーユは祖母の妹である修道女イヴェットに引き取られ、女子修道院で育てられました。弟にはハンセン病を患ったボードゥアン4世がいます。

ボードゥアン4世に後継者が望めないことが明らかになると、シビーユは王位継承者候補として、1176年にモンフェッラート侯グリエルモと結婚します。しかし、グリエルモは翌年に亡くなり、シビーユは身ごもっていた子供（後のボードゥアン5世）を残して未亡人となりました。

この後、シビーユは、宮廷派と在地諸侯の勢力争いに巻き込まれていきます。1177年には、フランドル伯フィリップがシビーユとの結婚と摂政権を要求しましたが、在地諸侯の反対により実現しませんでした。また、ギヨーム・ド・ティールの年代記によると、シビーユはボードゥアン・ディブランと恋仲であったとされますが、母アニエスの意向でギー・ド・リュジニャンと結婚することになります。

エルサレム女王として

1180年、ボードゥアン4世はギーを摂政に任命しましたが、その能力に疑問を感じ、1183年にはシビーユ夫妻の継承権を奪い、自身の甥であるボードゥアン5世を共同王としました。ギーは摂政から解任され、代わりにレーモン3世が摂政となりました。

1185年にボードゥアン4世が亡くなると、ボードゥアン5世が王位を継承しましたが、わずか1年で病死しました。再び後継者争いが起こり、シビーユの母アニエスの婚姻が無効とされていたため、妹のイザベルの方が正当な後継者であるという考えも存在しました。

諸侯はシビーユの即位の条件としてギーとの離婚を要求しますが、シビーユはこれを受け入れ、即位すると同時にギーを夫として指名し、戴冠させました。

ハッティンの戦いとエルサレム陥落

ギーは強硬派のルノー・ド・シャティヨンと組み、十字軍を率いてサラディンに対抗しましたが、1187年7月4日のハッティンの戦いで大敗を喫し、ギーは捕虜となり、ルノーは処刑されました。

エルサレムに残っていたシビーユは、バリアン・ディブランに防衛を委ねましたが、エルサレムは陥落しました。シビーユは娘たちと共にトリポリへ移りました。1188年にギーが解放されると、シビーユは共にティールへ向かいますが、入城を拒否されたため、アッコンの攻略を開始しました。

シビーユの死とその後

アッコン包囲中にシビーユと2人の娘は病没しました。シビーユの死後、貴族派はイザベルを女王に推戴しましたが、ギーは1192年まで王位を主張し続けました。シビーユの生涯は、エルサレム王国の激動の時代を象徴しており、その死は、王国崩壊の歴史の一幕として語り継がれています。

シビーユの生涯は、中世の女性が置かれた複雑な立場、王位継承を巡る権力闘争、そして十字軍時代の混乱を映し出しています。彼女の決断と行動は、エルサレム王国の歴史に大きな影響を与えました。

もう一度検索