シベリアは、
カステラで
羊羹、または
小豆餡を挟んで作られる日本の
菓子です。時には「シベリヤ」と表記されたり、「
羊羹カステラ」という名称で販売されることもあります。
概要
この
菓子の最も特徴的な点はその製法にあります。一般的な
サンドイッチ状に素材を重ねるのではなく、型に
カステラを敷いた上に、溶かした状態の
羊羹や餡を流し込み、その上から再び
カステラを重ねて作られます。これにより、固まる際に
羊羹や餡と
カステラが強く結びつき、一体化した独特の食感が生まれます。
シベリアの製造には手間とコストがかかります。自前で
カステラを焼き、小豆や
寒天から
羊羹を仕込む必要があり、現代のように多様な
食品が溢れ、需要が以前ほど多くない状況では、製造を続ける業者は限られています。
菓子店によって製法には違いが見られ、中に挟まれる餡は
ゲル状であったり、しっかりと固められた
羊羹そのものであったりと様々です。
羊羹の色も伝統的な茶色だけでなく、緑色や赤色のものも存在します。
カステラの層数も2層、3層、4層と多様性があり、見た目にもバリエーションがあります。
食品としての分類も製造元や原材料によって異なり、「洋生
菓子」「和生
菓子」「洋
菓子」「和
菓子」など、多岐にわたります。
主に首都圏を中心とした
東日本や
中部地方で広く親しまれていますが、近畿以西の西日本ではあまり馴染みがないと言われています。ただし、
高知県では地元の
菓子メーカーが製造しているほか、
山崎製パンなどが販売するものが
スーパーマーケットなどで広く扱われています。また、
中部地方で製造される地方
菓子として、一口サイズにカットされたものが流通するケースも稀に見られます。カットの形状も、写真などでよく見られる四角いものだけでなく、
サンドイッチのように
直角三角形に切られたものもあります。現在では
山崎製パンや工藤パンといった大手製パン会社からも販売されていますが、出荷エリアはやはり
東日本に偏る傾向が見られます。
歴史
シベリアの歴史は古く、その起源には不明な点が多い謎めいた
菓子です。
冷蔵庫が普及していなかった時代には、ひんやりとした食感と、「
シベリア」という名前が持つ涼やかな響きが人々に好まれました。特に
昭和初期には、子どもたちの間で非常に人気が高く、「一番食べたいお
菓子」として親しまれたという逸話も伝わっています。
しかし、発祥の地、考案者、名称の由来、さらには厳密な
食品分類に至るまで、公式に解明された事実はありません。ただ、かなりの古い歴史を持つことは確かなようです。
1916年(
大正5年)創業のコテイベーカリーの記録によれば、誕生は
明治後半から
大正初期頃と推測され、当時は多くのパン屋で製造されていたとのことです。このコテイベーカリーでは、創業以来
シベリアの製法を変えずに現在も製造を続けています。
歴史的な文献からもその存在が確認できます。
古川ロッパの著書『
ロッパの悲食記』には、彼が旧制早稲田中学時代によく通った「ミルクホール」(喫茶店の前身)で、「シベリヤと称する、
カステラの間に白い
羊羹を挿んだ、三角形のもの。(黒い
羊羹のもあった)」を食べた思い出が記されています。また、『聞き書 東京の食事』(1988年)には、
1930年頃の状況として、ミルクホールでミルクコーヒーと共に
シベリアを食べる描写があり、こちらでは「
シベリアは
カステラにあんこをはさんだものである」と説明されています。これらの記述から、東京や横浜といった関東の都市部で、かなり早い時期から
シベリアが食べられていたことがうかがえます。
考案者は現在も特定されておらず、関東地方以外や海外に同様の
菓子が存在するという情報も確認されていません。名称の由来についても様々な説が唱えられています。有力なものとしては、中に挟まれた
羊羹を
シベリアの
永久凍土に見立てたという説、
カステラを広大な氷原に、
羊羹をそこに敷かれた
シベリア鉄道の線路に見立てたという説、
明治期にあった
シベリア出兵にちなんだという説、
日露戦争に従軍した
菓子職人が考案したという説などがあります。
一説には、
愛媛県松山市の郷土
菓子であるタルトを、より多くの人々が手軽に楽しめるようにアレンジしたものとも言われています。タルトに形状が近いものとして、
巻き寿司のように中心に
羊羹を巻き込んだタイプの「
羊羹カステラ」も存在します。
近年では、
2013年(平成25年)に公開され大ヒットしたアニメーション映画『風立ちぬ』の劇中に登場したことで、「昔懐かしい
菓子」として再び注目を集めました。また、
2020年(令和2年)には、
佐賀県の老舗和
菓子店である
村岡総本舗が、
三越伊勢丹の協力を得て「丸型
シベリア」などの新しい商品を開発し、
通信販売を行うといった動きも見られます。
独特の見た目と食感、そして歴史に包まれた背景を持つ
シベリアは、今なお一部の人々に愛され続けている個性的な日本の
菓子です。
関連項目
合わせ
羊羹
ロシアケーキ
いだてん〜東京オリムピック噺〜
とと姉ちゃん