シベール (同人誌)

『シベール』とは

『シベール』は、吾妻ひでおが主宰する無気力プロダクションのシベール編集部が、コミックマーケット（コミケ）11から17にかけて販売していた同人誌です。1979年4月に創刊され、1981年4月の第7号で終刊しました。この同人誌は、日本初のロリコン漫画同人誌として知られています。

誌名の由来は、吾妻ひでおが当時NHKで放送されていた映画『シベールの日曜日』から取ったとされています。表紙は黒一色で、人目を避けるように紙袋やビニール袋に入れて販売されていたため、「謎の黒本」とも呼ばれていました。また、『シベール』はコミケで行列ができた最初の同人サークルとしても知られています。

歴史的背景

『シベール』は、男性向けエロ同人誌の草分け的存在であり、コミケ黎明期におけるロリコンブームの火付け役となりました。同誌の登場は、その後の『レモンピープル』や『漫画ブリッコ』などの美少女コミック誌の成立に大きな影響を与え、美少女アニメや美少女ゲームの発展にも繋がりました。

現在では資料的価値も指摘されていますが、同人誌というメディアの性質上、公共機関での所蔵はほぼなく、全体を目にすることは非常に困難です。

執筆者たち

主な執筆者は、吾妻ひでお、沖由佳雄、蛭児神建、仁科蒼一、孤ノ間和歩、計奈恵、豊島ゆーさく、三鷹公一、早坂未紀、森野うさぎ、川猫めぐみ、海猫かもめなどです。全員が別名義で執筆していました。主力作家は、江古田の喫茶店・まんが画廊に置かれていた「らくがき帳」に常連客が残した落書きを見て、吾妻のアシスタントだった沖由佳雄がスカウトしたとされています。

創刊までの経緯

吾妻ひでおによると、『シベール』は「コミケからやおいを駆逐する」目的で創刊したとされています。初期のコミケでは、参加者の多くが女性で、少女[[漫画]]ファンや漫画研究会の大学生が中心でした。そのため、流行していたのは「やおい」作品が中心であり、『シベール』の登場は、男性側からのカウンターカルチャーとしての側面がありました。

蛭児神建は、『シベール』に先駆けて日本初のロリコン同人誌『愛栗鼠』を1978年12月に発表しており、彼自身の回想によれば、「やおいがあったからこそ『シベール』ができた」としています。当時の一般的な男性向けエロ漫画はリアルタッチの劇画が中心でしたが、『シベール』の登場は、手塚治虫のような丸っこい絵柄でもエロを描けるという新しい美意識の発見をもたらしました。

『シベール』創刊

『シベール』創刊号は、1979年4月8日に開催されたコミケ11で頒布されました。黒色のラシャ紙の表紙で、B5判26ページのコピー誌でした。執筆者は吾妻ひでお、沖由佳雄、蛭児神建、仁科蒼一の4名でした。当時、現役のプロ漫画家が成人向け同人誌に執筆することはタブー視されていましたが、吾妻ひでおはあえてその道を選びました。

2号目からは、孤ノ間和歩、計奈恵、豊島ゆーさくが参加しました。当初はあまり手に取ってもらえませんでしたが、3号目からは開場前から行列ができるようになり、コミケの歴史に新たなページを加えました。

『シベール』同人について

吾妻ひでお

漫画家。1970年代にはナンセンスギャグ[[漫画]]で人気を博し、その後SF的な作風やロリコン漫画にも取り組みました。代表作に『ふたりと5人』『ななこSOS』などがあります。晩年はアルコール依存症を患い、その経験を元にした自伝『失踪日記』は多くの賞を受賞しました。

沖由佳雄

吾妻ひでおのアシスタント。『シベール』の編集長兼スカウト役。同人サークル「グループ601」を主宰しました。

蛭児神建

作家・編集者・僧侶。ロリコン界の教祖的存在として知られています。自身も同人誌『愛栗鼠』を創刊し、『シベール』にも参加しました。後に過激なロリコン同人誌を制作し、話題となりました。

仁科蒼一

パロディ漫画家。蛭児神建が主宰する漫画評論サークル「ユニオン・エカルテ」に参加しました。

孤ノ間和歩

漫画家・イラストレーター。計奈恵の師匠。『シベール』の中核メンバーであり、美少女[[漫画]]の草分け的存在です。

計奈恵

漫画家。孤ノ間和歩の弟子。『シベール』に参加後、商業誌でも活躍しました。

豊島ゆーさく

漫画家。ケモナーの先駆者であり、『シベール』時代からケモノを題材とした作品を制作していました。

三鷹公一

漫画家。吾妻ひでおのアシスタント経験があり、小学生向けの漫画雑誌でも執筆していました。

早坂未紀

漫画家。和田慎二、吾妻ひでお、村上もとかのアシスタント経験があります。美少女SF[[漫画]]家として知られていましたが、現在は消息不明です。

森野うさぎ

漫画家・イラストレーター。現在の萌え属性につながる「ぷにロリ」の元祖的存在です。

川猫めぐみ

漫画家・愛猫家。叙情的な作風で知られ、美少女専門誌にも執筆しました。

海猫かもめ

計奈恵の弟。東京電力社員であり、『プチパンドラ』にも執筆しました。

自動販売機雑誌『少女アリス』

1979年冬、吾妻ひでおはアリス出版の『少女アリス』で「純文学シリーズ」を連載しました。これは、商業誌初のロリコン漫画とされ、当時としては前代未聞のことでした。

『シベール』の終刊

『シベール』は、ブームの高まりとともに参加者の本業が忙しくなり、後続の同人誌も現れたため、1981年4月のコミケ17で終刊しました。終刊号には、デビュー前の山本直樹も並んでいたという逸話があります。終刊後、すぐに伝説化し、多くの評論家によってその功績が語られました。

シベール・メンバーのその後

吾妻ひでおが定型化したロリコン漫画は、その周辺の同人作家たちに受け継がれ、広がっていきました。蛭児神建は「変質社」を立ち上げ、過激なロリコン文芸誌を発行しました。その他のメンバーは、「グループ601」「ぐるーぷティンカーベル」「STUDIO BAKI」などのサークルに分かれ、活動を継続しました。

書誌情報

『シベール』の他、『プチ・シベール』、『アニベール』、『ホワイトシベール』などの関連誌も発行されました。

掲載情報

『シベール』の各号の掲載情報については、以下に詳細を記載します。

Vol.0：予告&原稿募集号
Vol.1：仁科蒼一「ぬりえ」、沖由佳雄「みかさちゃんききいっぱつ」、蛭児神建「末摘花の時」、吾妻ひでお「赤ずきん・いん・わんだあらんど」など
Vol.2：孤ノ間和歩「不思議の国からフシギな国にやって来た不思議の国の小リスのアリスのふしぎなふしぎな物語」、沖由佳雄「みかさちゃんききいっぱつ」、計奈恵「Me?」、蛭児神建「ロリコン図書リスト」など
Vol.3：沖由佳雄「野良神様」、計奈恵「ライヴ」、孤ノ間和歩「だれもしランドファンタジー」、豊島ゆーさく「エレネアの子ら」、吾妻ひでお「赤い風」など
Vol.4：孤ノ間和歩「だれもしランドファンタジー2」、森野うさぎ「ムーンパーティー」、計奈恵「ジュンマネア」、豊島ゆーさく「母さんの血」、吾妻ひでお「夢の少女」など
Vol.5：早坂未紀「フリーザ」、沖由佳雄「学園無稽帳」、孤ノ間和歩「プラトニック ソルジャー」、森野うさぎ「鏡の中のマリー」、豊島ゆーさく「我が国のTVアニメーションドラマにおける幼女キャラクターの魅力と人気についていささか極私的な考察」、吾妻ひでお「10月の空」など
Vol.6：三鷹公一「西遊記 in wonder land」、森野うさぎ「落葉」、計奈恵「FOX HUNTING」、孤ノ間和歩「プラトニック・ソルジャーはどこいった」、沖由佳雄「ブルートレイン異聞」、豊島ゆーさく「ぱーるぴんく くりすます」、吾妻ひでお「マイナースペース ササミストリート」など
Vol.7 (終刊号)：三鷹公一「西遊記 in wonder land 2&3」、海猫かもめ「Faiys meking love story.」、川猫めぐみ「ねねねこ山のハイジ」、森野うさぎ「ミルキィ♡ピンク」「KOEDA」、孤ノ間和歩「シベールの星だなどと思うなよ」、沖由佳雄「アクシデント プラネット」、計奈恵「幻の震駭戦」、豊島ゆーさく「南風」「シベオン」、吾妻ひでお「妄想のおと（ロリコン編）」「うわさ」など
Vol.8 プチ・シベール：イラスト集
Vol.9 アニベール：アニパロ系コピー誌
* Vol.10 ホワイトシベール：カラーイラスト集

『ミャアちゃん官能写真集』

吾妻ひでおが発行した同人誌。1981年8月発行。猫山美亜のイラストを収録。沖由佳雄、孤ノ間和歩、森野うさぎ、早坂未紀、豊島ゆーさく、三鷹公一らがイラストを寄稿。

参考文献

（参考文献リストは省略）

以上が『シベール』に関する詳細な解説です。

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